前回はしゃがめという記事で、体を沈める重要さをお伝えしました。
現代人はしゃがむ動作を失いつつありますが、その動きは多くの恩恵を与えてくれるものでした。
血液やリンパなど全身の循環を良くして、精力を上げ、骨を強くし、代謝を活発にし、怪我や病気を防止してくれるのです。
しかし実はもう1つ、多くの現代人が失いつつある重要な動作があります。
本当は前回の余談で書こうと思っていたのですが、ついでにしてはボリュームが大きくなりそうだったので、今回改めて新記事として書く事にしました。
僕達の日常から消え去ってしまったしゃがむと双璧を為す重要な動作についてです。
前回の記事と合わせて読んでもらう事で本質的な肉体造りがわかってくると思うので興味ある方は読んでもらえたらと思います。
もう1つの動作とは?
結論から言ってしまいますが、「持ち上げる」という動作です。
持ち上げると言うと日常でもやってそうな気がするかもしれませんが、現代生活での持ち上げ動作は極めて限定的です。
せいぜい地面にある物を拾う位ではないでしょうか?
確かにそれも持ち上げるの一種ではありますが、持ち上げ動作全体の一角に過ぎません。
ここで言いたいのは、体全体を使った持ち上げです。
つまり、地面の位置にあるものを持って、それを頭上まで上げるとという動作を指します。
しゃがむと同様、最後までフル稼働で動く事です。
昔の日本人にはこの習慣がありました。
一番わかりやすいのは布団を押入れに入れる動作です。
世代が上の人ならやっていたはずですが、朝起きたらすぐ敷布団を畳んで持ち上げ、押入れにしまっていたと思います。
これが僕の言いたい「持ち上げる」です。
地面の物を持って、胸の前まで上げて、更にそこから頭上に向かって押し出す、ここまで揃えて「持ち上げる」なのです。
究極の全身運動
この動作、平凡な動きに見えるかもしれませんが、実は体にとって非常に重要なものでした。
何が重要かと言えば、たった1つの動作の中で全身のありとあらゆる筋肉を動かしている点です。
動作を細かく分けて見るとわかりますが、まず布団を持って腰まで持ち上げる動作。
これはデッドリフトですよね。
デッドリフトはBIG3の一角で有名ですが、体幹や下半身を強力に使う運動です。
以前、腰痛防止にもなると紹介した事もありますが、この動きだけでもかなり大切です。
続いて、胸の前まで持ち上げる動作。
無理矢理筋トレに例えて言えば、シュラッグとアップライトロウを合わせたような動きになっています。
ここでは引き上げ動作として背面側の筋肉が全体的に使われます。
最後に、頭の上まで持ち上げる動作。
筋トレで言えばショルダープレスです。
先程とは逆に押し上げ動作として、前面側の筋肉が全体的に使われます。
こうして見るとわかると思いますが、布団を押入れに入れる動作では全身がくまなく使われます。
持つ手の腕力が使われるのは当たり前として、体幹、下半身、上半身の前面背面も参加する非常に優れた全身運動になっているのです。
これだけ体全体を一緒に動かせる動作はなかなかありません。
しかも、一丸となって動かします。
それぞれの筋肉を独立させて動かすというよりも全身を連結させてバランスも取りながら動かすので体の使い方自体も上手くなるのです。
そう考えてみると、相当に有意義な動きである事がわかると思います。
使われなくなった肩関節
しかし、現代ではベッドが主流になりました。
部屋自体が洋風に変化していく中で、地面に布団を敷いて寝るという風習が無くなってきています。
そのため、布団を押入れにしまうという素晴らしい動作が失われてしまったのです。
この動作が無くなってしまった事が現代人の健康問題を引き起こしていると言う研究者もいます。
特に、最後の頭上に押し上げる部分です。
現代では腕を肩より上に持っていく機会がほとんど無くなってしまいました。
考えてみて下さい。
日常で腕を肩より上げる時があるでしょうか?
力仕事をしている人以外はまず無いと思います。
タンスなど西洋文化の収納が増えた事で、高い位置にある物を取ったりしまったりする事が無くなってしまったからです。
すると、肩関節が固定化されていきます。
「しゃがめ」の記事でも書きましたが、関節は使わないと必要最低限しか動かなくなります。
本来、肩は上下前後左右に動く最も自由度の高い関節なのですが、固まって回らなくなり、ちょっとした動きで怪我をするようになるのです。
そして、動きが制限されれば同時に筋肉も落ちます。
肩の筋肉が弱くなれば首周りの血流が阻害され、肩凝りが発生します。
肩は腕の付け根でもあるので、手先の冷え症も起こってきます。
もしかしたら、現代人の肩凝りや冷え症の真の原因は布団を押入れに入れなくなったからかもしれません。
更に言うと、肩の近くの脇下にはリンパ節があるのですが、そこの循環が滞って細菌に侵されやすい体になります。
風邪を引きやすいという人の本当の原因は、腕を肩より上に上げなくなったとも言えるのです。
肩関節は股関節と同様、胴体と四肢を繋ぐ重要な連結地点でもあります。
この2つは持ち上げ動作としゃがみ動作で最も稼働し、それを失う事は命取りになりかねないのです。
腕を上げよ
僕達が普段から気を付けるべきは、とにかく腕を上げる事です。
もしダンベルを持っているのであれば、ショルダープレスを始めて下さい。
初心者は軽いものでも構いませんのでスクワットと同様に30回3セットを目指すのが丁度良いかと思います。
可変式のダンベルやバーベルで高重量に挑戦してもいいですが、スクワット同様、重量の上げ過ぎには気を付けて下さい。
肩の三角筋が弱い内は肩関節に負担がかかって故障するリスクがあります。
やはり最初の内はスクワット同様15~20回で潰れるような重さが安全かもしれません。
後、懸垂もおススメできます。
必然と腕が上げっぱなしになるので、背中を鍛える種目として懸垂を採用するのは賢い選択です。
それから、ちょっと特殊な運動になりますが、スクワットとショルダープレスを同時に行うのも良いエクササイズになります。
やっている人はほとんど見かけませんが、ダンベルを持ち上げながらしゃがみ込むのです。
股関節と肩関節が動いて循環が良くなりますし、同時に動かすので時間も短縮できます。
多くの筋肉が参加するので心肺も強くなります。
また、二つの動作を同時に行う複雑な動きは脳や運動神経を発達させてくれます。
但し、1つ1つの筋トレに集中できないため筋肥大効果は余り見込めないはずなので、あくまで健康目的としての推奨になります。
素晴らしき重量挙げ
そして、今回お話した持ち上げ動作の中で、最も優秀な運動があるのでそれも紹介しておきます。
クリーン&ジャークです。
これは重量挙げの種目の1つですが、正に布団を押入れに入れる動作を再現します。
クリーンは地面から胸まで持ち上げる動作、ジャークは胸から頭上まで持ち上げる動作、それを一連で行うのがクリーン&ジャークです。
しかも、クリーンで重りをキャッチした時に体を沈めてやるとスクワットも入ります。
実際、重量挙げではそのように行われるのですが、これによりしゃがみ動作も加わり、現代人が失いつつある重要な動作を全て行えてしまうのです。
そう考えると非常に優れた動きである事がわかりますよね。
しゃがみ動作と持ち上げ動作を行う事で、全身の循環が促進されます。
また、全身の筋肉を連動させて動かすために神経系が発達して実用的な肉体を構築してくれます。
1つ注意点を言っておくとクリーン&ジャークはクイックリフトという動きになり、勢いを付けて素早く行わなければいけません。
スロトレとは真逆で全身を瞬間に繋げて持ち上げる必要があるので動作が少し難しく、慣れるまで多少の時間を要すると思います。
ちなみに、この動きはダンベルでも可能です。
ダンベルを平行に持って動かせば、だいたい同じような事ができるはずです。
更に欲張ってもう1つ紹介しておくと、スナッチという動作があります。
これは重量挙げのもう1つの種目なのですが、クリーン&ジャークとは違い、重量を地面から一気に頭上まで持ち上げてしまう方法です。
先程のスクワットとショルダープレスを同時に行う方法の発展系とも言えるでしょうか。
こちらも全身の循環を良くすると共に実用性の高い筋肉を付けてくれます。
但し、非常に難しいです。
クリーン&ジャークも難しいのですが、スナッチの難易度は跳ね上がります。
Youtubeにやり方はゴロゴロ転がっていますが、本格的にやるなら相当練習を重ねるか、一度習う必要が出てくるかとは思います。
ただ、別に重量挙げの大会に出るわけでは無く、自分の体と健康のためと考えているのであれば自己流で取り入れるのは全然と良いと思います。
体は少しずつ覚えていってくれるので、それっぽくでもいいから実践するのが大切です。
という事で、まさかのウェイトリフティングの話に発展してしまいましたが、具体的な実践方法まで示せたところで、今日は終わりたいと思います。
ご自身のライフスタイルに合わせて適宜トレーニングを改善してみて下さい。
それではまた。
素晴らしい記事です。
私もここ3年ほど週に2回トレーニングでクリーンしてました。
習得するのに少し時間掛かりますが芯から強くなるので無理のない範囲でみなさんもぜひチャレンジして欲しいですね。