前回は要らない筋肉という事で、そんなに鍛えなてくてもいいんじゃない?という筋肉のお話をしてみました。
それに対し、「大変勉強になりました 」という感想のメールをいくつか頂いたので、今回はその続きという事で、逆に「要る筋肉」について話してみようかと思います。
要る筋肉って表現が既におかしいですが、結構大切でもっと積極的に鍛えた方がいいんじゃなぁい?という筋肉の事です。
前回になぞらえて言い換えてみると、皆がおろそかにしがちなのだけれど実は重要で実用性が高い筋肉です。
正しい肉体の在り方に興味のある方にとっては参考になると思うので、ご一読してみて下さい。
1.ハムストリング
腿の裏側の筋肉群で、厳密に言うと大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋の3つの筋肉の総称です。
膝を曲げる動作が有名ですが、大腿四頭筋と同様に、走る、跳ぶ、蹴るなど下半身動作に幅広く使われる筋肉です。
そう言えば、ハムストリングという名称は「豚腿肉(ハム)の紐(ストリング)」から来ているそうです。
豚でハムを作る時、腿肉をぶら下げるためにこれらの筋の腱が使われたとの事。(Wikiさん参照)
この筋肉は意識して鍛えている人が比較的少ない方だと思っています。
裏側という事もあって見た目的な訴求効果も小さいですし、そもそも鍛えるのが難しいという事もあります。
色んな意味で下半身はどうしても大腿四頭筋の方がクローズアップされてしまい、ハムはおろそかにされがちです。
しかし、ハムストリングは非常に重要です。
前回の記事でもチラホラ出ていたので何となく気付いている人も多いと思います。
要らない筋肉では大腿四頭筋がブレーキ筋という話をしましたが、このハムストリングは逆に「アクセル筋」となります。
下半身の推進力を生み出す筋肉で、全身の動きをスムーズに動かす働きがあるのです。
事実、陸上のトップ選手は大腿四頭筋よりも裏側のハムストリングが発達している事がわかっています。
トップランナーは前方に着地した脚を後方へ移動させるスウィングダウンの動きが極めて速く、それを可能にしているのがハムストリングなのです。
前回の話にも出てきたマイケルジョーダンもハムストリングが発達していたと言われています。
彼は大腿四頭筋ではなく、ハムストリングを使ってジャンプしていたからこそ、あれだけ滑らかでスムーズな動きができていたのでしょう。
また、ハムストリングは後にお話する腸腰筋と拮抗筋の関係にあります。
腸腰筋は人体の軸を成す極めて重要な筋肉ですが、ハムストリングはその腸腰筋と一緒になって高度な身体運動を可能にします。
様々な角度から見て、ハムストリングは非常に重要度の高い筋肉ですので、積極的に鍛えていくのが良いかと思っています。
ではどうやって鍛えるかというと、これがなかなか難しい。
マシントレーニングではレッグカールという膝を曲げるトレーニングがあるのですが、これは人間的にあり得ない姿勢と動作なので余り好ましくないと思っています。
自然で一番効果が高いと思われるのは、やはりデッドリフトです。
膝を余り動かさないデッドリフトで何で脚裏が鍛えられるのか不思議に思う人もいるかもしれませんが、ハムストリングは骨盤と繋がっており、股関節を動かす時にも使われます。
デッドリフトの背中を起こす動作により股関節が伸張され、この時にハムストリングが収縮するわけです。
スクワットでも鍛える事は可能ですが、こちらは大腿四頭筋の参加率も高いためフォームが大事になってきます。
できるだけ尻を後方に突き出す姿勢をする事で、ハムストリングへの負荷が高くなるので意識してみて下さい。
意識と言えば、スクワットの時に腿裏を手で触っておくのも良いと思います。
人間は何かしら接触のある場所や抵抗のある場所に意識が向くので、ハムストリングを手で抑えておけば、そこの筋肉を接触的に使おうとしてくれます。
2.脊柱起立筋
※「筋肉の基本と仕組み」抜粋
体幹の背面を骨盤から頸部まで縦走するインナーマッスルの筋肉群です。
姿勢を維持したり、体を伸展させたり左右へ反らせたりする働きがり、ほぼ全ての動作に関与してきます。
先程言った通り、この筋肉はインナーマッスルのために外見上わからず、余り積極的に鍛えられる事がありません。
それこそ見た目重視のボディビルダーは敬遠しがちと言います。
しかし、脊椎動物である人間として脊柱起立筋は最重要筋肉です。
以前から何度もお話した事がありますが、脊椎動物の力の源は背骨周りの筋肉群にあります。
水の抵抗の中を素早く移動する魚の泳ぎもそうだし、草原を時速100kmで疾走する動物の走りもそうです。
人を吹き飛ばすアメフト選手の強烈なタックルもそうだし、300kgのバーベルを持ち上げるパワーリフターの力もそうです。
あらゆる力の根源が背骨周りの力で支えられています。
そして、そんな背骨周りの力で最も大きいのが脊柱起立筋です。
背骨の先端から末端まで存在し、人体最大の出力を誇るとも言われています。
水泳、陸上、格闘技、重量上げ、あらゆる場面で大きな力を発揮してくれる超重要筋肉なのです。
更に、脊柱起立筋は腰痛とも関係が深いです。
以前、腰痛改善エクササイズの動画を紹介しましたが、そこで脊柱起立筋を鍛えるよう勧めていたと思います。
現代人はどうしても背中が丸まりやすく、大腰筋が固まって腰痛を起こしやすいのですが、体を起こす脊柱起立筋を鍛える事で恒常的に腰が伸ばされ、腰痛を防止してくれるのです。
パワーという意味でも怪我という意味でも非常に重要なファクターになってくるので脊柱起立筋は是非とも鍛えておきたい筋肉です。
鍛え方はと言うと、先程のハムストリングと一緒でデッドリフトが一番効果的だと思います。
後はパワークリーンという方法もあります。
こちらは少し難易度が上がるので、中級者以上でないできないかもしれません。
自重でやるならバックエクステンションです。
ただ、これは負荷が弱いため元々力の強い脊柱起立筋は十分に鍛えられない可能性があります。
腰痛改善位にはいいですが、パフォーマンス向上を求めるのであればデッドリフトやパワークリーンを取り入れるのがお勧めです。
3.腸腰筋
※「筋肉の基本と仕組み」抜粋
腰椎と大腿部を繋ぐ大腰筋と骨盤と大腿部を繋ぐ腸骨筋の総称で、外から見えないインナーマッスルです。
こちらも姿勢を維持したり、腿を上げたりなど、非常に多くの動作で使われる筋肉です。
この筋肉も脊柱起立筋同様に外見上見えない事から余り積極的に鍛えようという人を見かけません。
しかし、腸腰筋は達人の筋肉と称される程に身体機能に大きな影響力を持った重要な筋肉です。
その理由の一つは「コントロール筋」である事。
腸腰筋は人体の中間に位置する腰部を支配しており、他の筋肉のガイドライン的な制御筋となって体の動きの精密度を高める役割があります。
例えば、二本に分かれた脚をそれぞれの脚の筋肉でコントロールしようとしても、重心位置から遠ざかるために大きなモーメントが発生してしまい、体幹部が揺れて動きがぎこちなくなります。
しかし、腰椎という体幹の中心に接続された大腰筋を主導で動かす事で、左右のバタつきや無駄な動きが少なくなるのです。
前回の記事でも、動作の精度は体の中心部程高くなるという話をしたと思いますが、腸腰筋は正に人体の中心にあって、正確な動きを可能にしてくれるのです。
そして、バランスを取る機能も優れています。
腸骨筋は腰椎や骨盤を前下方に曲げるなど多関節筋としての働きを持ち、体幹の安定に大きな役割を持っています。
更には、パワーもあります。
腸腰筋はそれ自体が大きいという事もありますが、何よりも体の中心部に存在するため、最終的に力を伝える時間が長くなり、発揮できるパワーが大きくなるのです。
陸上競技においても、腸腰筋が重要であるというデータはたくさんあります。
先程、走行でハムストリングが非常に重要と話しましたが、大腰筋の大きさと100m走の記録は、ハムストリングと100m走の記録よりも相関関係が強い事がわかっています。
大腰筋は正確で無駄の無い脚のスウィングを可能にし、更には脚が激しく動く時の姿勢保持しつつ、その上、直接的な駆動力発揮源として働くのです。
この腸腰筋、どうやって鍛えるかと言うと、これもまた難しい。
一番やりやすいトレーニングはランジかと思います。
後脚の股関節屈曲動作により大腰筋と腸骨筋の両方に負荷をかける事ができます。
但し、かなり意識をして行わないと、ただの脚のトレーニングになってしまうので気を付けて下さい。
後は、少し難しいですが片脚スクワット。
股関節の外旋を伴う動作により、こちらも腸腰筋が鍛えられます。
また、レッグレイズにより大腰筋も鍛えられます。
この時に重要なのは、腰を使って脚を持ち上げる事。
初心者はレッグレイズを脚で持ち上げようとしてしまうのですが、膝を動かさずに腰で持ち上げるようにするのが大事です。
できるならベンチなどを使って、胸椎を起点に腰部まで全て持ち上げられると良いと思います。
ただ、個人的にもっと大事なのは、日常生活から腸腰筋を使う意識だと思っています。
現代人の多くは腸腰筋を全く使えていません。
中心部から体を動かす事ができず、手足が主導筋となって動いてしまっています。
そのため使われなくなった腰周りが固まって腰痛が起こったりもするわけですが、その体の使い方を直すのが先決です。
普段の動作からなるべく腸腰筋を意識して、そこを主導筋に体を動かす努力をする事です。
腸腰筋の参加率を上げてあげて下さい。
そうする事で自然と腸腰筋が発達して、本来の体の使い方を取り戻してくれるようになるのではと思っています。
握力の問題
という事で以上、3つの要る筋肉を紹介してみましたが、実はこの他に、握力なども考えられます。
僕は現代人に深刻な握力弱体化が進んでいると感じています。
日本などの先進国で暮らしていると、あらゆる道具が安全に使いやすく設計されているため、何かを強く握ったり、掴んだり、つまんだりする機会がほとんどありません。
体を鍛えるはずのバーベルやダンベルですら持ちやす過ぎて話になりません。
強いて言えばスポーツのボルダリングがありますが、そのボルダリングをやってみると一般人の握力がいかに退化しているのかがわかります。
ですので、僕は握力も積極的に鍛えるべきと考えていますが、この話をし出すと余りにも長くなるのと、人を選ぶマニアックな内容にもなりかねないので、今回は止めておきます。
危機感を感じたり、向上心を刺激された人は個人的に鍛える方法を考えてもらえたらと思います。
ではそんな感じで今日はこの辺で終わります。
脊柱起立筋の自重は、立った状態からブリッジ、ブリッジした状態から立つので鍛えられます
要らない筋肉の項目に「前腕屈筋群」がありましたが、
要る筋肉の項目に「握力」が書いてあるのは何故なんでしょうか・・・
>アルコール除菌
日常でハムストリングス使うのは膝を抜いた、腰を落としたポーズです、あと何かを押す時
重いもの持ち上げるときに腰をおとしたポーズで体支えないと大腿四頭筋の力が使えません
これを使わないと腰曲げて上半身の力だけで力を使うので腰を痛めます
腸腰筋は下腹部の引き締め。下っ腹が出ても構わないならいらないかもしれないが
握力を鍛えると、前腕が太くなりそうですが大丈夫でしょうか?
それと脊柱起立筋はボディビルダーはめちゃくちゃ鍛えます。
デッドリフトやロウをやりこんでいるので・・・
一流のビルダーは姿勢もまっすぐしているのは姿勢維持に必要な筋群(脊柱起立筋、腸腰筋等)がフリーウェイと種目で刺激されているからだそうです。
要る/要らない筋肉、大変興味深く拝見しました。
私はジムの体幹トレーニングで腸腰筋、ハムストリングス、脊柱起立筋など総合的に鍛える運動を3年以上続けています。学生時代に大した運動をしてこなかったアラフォーの普通の会社員ですが、なんとなく始めたジムでのレッスンが日常生活に非常に役に立っていると実感しています。
例えば、階段の上り下りです。これらの筋肉を使って階段を上り下りすると疲れにくく、膝や腰への負担も軽くすみます。そのため、エレベーターやエスカレータを使うことなく、無理のないちょこっと運動で健康と体型を維持できます。これは坂道や山登りのときにも応用できます。
また、平坦な道を歩くときも膝に負担が少ない方法で速く歩けるようになります。これは陸上100mの選手と同じ仕組みですね。そのときには自然と胸を張り、腰が伸び、腹筋群に力が入るので、見た目もよく、また下腹が出ることも防げます。
さらに、肩こりや腰痛になりません。私は1日中デスクワークですが肩こり・腰痛になったことがありません。
3年以上も続けていると、ハムストリングスを使って歩く場面と、大腿四頭筋を使う場面を意識的に変えられるようになります。ハムストリングスを使うとギアチェンジのように体がどんどん前に進むので面白いですよ!
いや 面白い記事ですよ。
私は市民ランナーですが、
ハムストリングスを鍛えて
脚が速くなった気がしますし
逆に、腿上げが脚が速くなるのは
多少「ウソ」に近いとわかり
ブレーキ作用が掛かって、還ってペースが
遅くなった気がするんです
ただ、ランジも「大腿四頭筋」を使っているので
「果て~、それで脚が速くなるのかな」って
思うんですが。
陸上100mの選手が「裏側のハムストリング」が重要なのはわかりますが、この記事はいったいどんな読者層に向けた記事なのでしょうか?
一般的な生活で、「裏側のハムストリング」や「腸腰筋」をメインで使う場面とか、もしくは非常に重要になる場面とか、ありえませんよね。
いつもながら極端な記事でしたね。
でも読んでいて面白いですよ。
腸腰筋をを普段使う機会を教えて下さい
分かりやすい説明ありがとうございます!