アウターマッスルの功罪

運動

競技を行っている方からこんな質問を受けました。

「コーチから体が貧弱だからもっと筋肉を付けろと言われるのですが、筋肉を付ける事で怪我は減るのでしょうか?」

これに対する僕の回答は、半分YESで半分NOです。

確かに筋肉をゴリゴリにつける事で体は丈夫になります。

アウターマッスルを鍛えて物理的に大きくなれば単純に外圧に強くなるので、そういう意味では怪我が減ると思います。

アメフトやアイスホッケー選手が筋トレをするのも、それが1つの目的です。

やはり体は大きい方が当たりも強くなるし、踏ん張りも効くし、衝撃も吸収しやすくなって、体へのダメージが少なく済みます。

一方、アウターマッスルを大きくしていく事で、返って怪我をしやすい体になる事もあります。

例えば、いかにも筋肉隆々で頑丈そうだけど、簡単に関節を故障するという人は少なくありません。

また、怪我しやすくなるだけではなく、運動パフォーマンスが著しく落ちる事もあります。

本来持っている力を十分に発揮出来なくなってしまったり、相手から動きを読み取られやすくなったりもします。

今日はこの話をしてみたいと思います。

アウターマッスルの功罪について。

アウターマッスルは必要なもので重要な役割を持っていますが、盲目的に鍛える事でリスクを伴う可能性がある事を知って頂き、普段のトレーニングに活かしてもらえたらと思っています。

アウターマッスルとインナーマッスル

さて、アウターマッスルを付ける事で、怪我をしやすくなるのはどんな時か?

結論から言うと、インナーマッスルとのバランスが崩れてしまった時です。

アウターマッスルとインナーマッスルの定義は難しいところがありますが、乱暴に言ってしまうと、

アウターマッスル:体を動かすもの
インナーマッスル:体を安定させるもの

こんなものだと思って下さい。

例えば、肩関節で言うと上腕二頭筋や上腕三頭筋、大胸筋や広背筋などが典型的なアウターマッスルです。

既知の方がほとんどと思いますが、これらは腕を大きく動かす事が出来ます。

ちなみに、大きく動かす事が出来る為、アウターマッスルは基本的に長いです。

関節を大きく跨いでいるからこそ、ダイナミックな動作が実現出来ます。

一方、肩関節のインナーマッスルで有名なのは、ローテータカフ(回旋筋腱板)と呼ばれる筋群です。

具体的には棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋などですが、これらは腕を肩関節で固定させる力があります。

肩にのしかかる衝撃から耐えたり、腕が良からぬ方向に曲がるのを防いだり、不安定な場所でバランスを取ったりしてくれます。

アウターマッスルが長いのに対して、インナーマッスルは短いです。

関節を小さく跨ぐ事でブレるのを固定しているわけです。

体の関節にはこうしたアウターマッスルとインナーマッスルが至るところに付いていて、両者は相互にバランスを取っています。

例えば、ベンチプレスを行う時、バーベルを上下に動かすのはアウターマッスルです。

しかし、この時に肩関節に加わる衝撃を吸収し、腕と肩甲骨を固め、不安定な状態を支えているのはインナーマッスルです。

両者が揃っていないとベンチプレスは上がりません。

いくらアウターマッスルが強くても、肩関節を支えるインナーマッスルが貧弱だと簡単に潰れてしまいます。

逆にインナーマッスルがいくら強くても、アウターマッスルが無ければ静止したまま動きません。

車のアクセルとブレーキのような関係だと思って下さい。

車を動かすのには当然アクセルが必要ですが、それを止めるブレーキも必須です。

体を動かすのにはアウターマッスルが必要ですが、逆に体を固定するインナーマッスルも必須となります。

崩れたバランス

問題なのは、現代フィットネスだと両者の重要性が、

アウターマッスル>>>>>インナーマッスル

になってしまっている事です。

見た目の変わるアウターマッスルばかりが鍛えられて、見えないインナーマッスルは疎かにされがちです。

その結果、強いアウターマッスルに体が振り回され、インナーマッスルがそれを制御出来ず、怪我をしてしまう事が起こります。

例えば、ベンチプレスで肩を痛めるのはその典型です。

高重量を扱うだけのアウターマッスルは揃っているのに、それを適切に支えるためのインナーマッスルが弱いため、オーバーワークとなって肩を壊します。

格闘技でも肩を痛めやすくなります。

強いアウターマッスルで非常に強いパンチが打てたとしても、ヒットした時の衝撃に耐えるインナーマッスルが弱いとやはり肩を怪我します。

アクセルに対してブレーキが弱いのです。

自分の出力に耐えられていない、自分の力を制御できていないとも言えます。

そうなれば大切な試合で怪我する可能性も上がりますし、怪我をしない為に始めたトレーニング自体で怪我をするなんて本末転倒な事態にもなりかねません。

普段の日常生活でも関節に思わぬ負担がかかった時、それに耐えられずに筋断裂や脱臼などに繋がる事も出て来るでしょう。

繰り返しになりますが、今の人はアウターマッスルが強くて、それに見合うインナーマッスルの無い人が多過ぎます。

それがよくわかるのはバランスボールを使ったプッシュアップです。

これはコンサルに参加した方にはやってもらう事がありますが、ほとんどの人が出来ません。

運動強度で言えば通常の腕立て伏せと変わりませんが、驚く事にベンチプレス100kg挙げられる人が1回も出来なかったりします。

何故、こういう事が起こるかと言うと、この運動では肩と体幹のインナーマッスルが必要だからです。

いくらアウターマッスルが強く、ベンチプレスで高重量を扱えても、不安定な面でバランスを取るインナーマッスルが無いので潰れてしまいます。

これが競技の場だったら、間違いなく怪我をする事になります。

運動パフォーマンスへの影響

アウターマッスルとインナーマッスルのアンバランスは怪我のリスクを高めるだけではなく、運動パフォーマンスも落とします。

どういう事かと言うと、通常姿勢を維持するのはインナーマッスルの仕事ですが、発達し過ぎたアウターマッスルはそれを代償してしまうのです。

例えば、立つという動作でバランスを取るのは、本来なら股関節周りにあるインナーマッスルの仕事ですが、それを大腿四頭筋やハムストリングが横取りします。

すると、肝心の脚を動かす事に力を割けなくなり、アウターマッスルとしての力を十分に発揮できなくなってしまうのです。

また、姿勢維持のために普段からアウターマッスルが緊張していると、リラックス出来ずに余計な力みが出て本来の力が発揮し辛くなりますし、箇所によっては過緊張を起こして筋肉が拘縮します。

更に、傍目からアウターマッスルに力が入っていれば、競技では相手から動きを読まれやすくもなります。

普段から緊張していて良いのはインナーマッスルの方です。

インナーマッスルは体を安定させ、アウターマッスルの働きをスムーズにします。

筋持久力も高いため、過緊張で機能が低下する事も少ないですし、見た目にはわからないので動きが読まれる事もありません。

水鳥のように表面は穏やかで、内面は力強くが理想です。

そのためには、アウターマッスルはリラックスして、インナーマッスルがきちんと働いている必要があります。

インナーマッスルの鍛え方

と言う事で、健全な肉体を目指していくならば、インナーマッスルも鍛えていくべきではないかと思います。

ではどのようなトレーニングをしていけば良いのかと言えば、一番分かりやすいのは接地面の不安定性を考慮してみる事です。

接地面が不安定になる程、インナーマッスルの参加率は高くなります。

逆に安定する程、アウターマッスルの参加率が高くなります。

アウターマッスルの参加比率が最も高いのはマシンです。

マシンは軌道が確保されているため、インナーマッスルはほとんど使われません。


マシンよりもインナーマッスルの参加率が高いのはウェイトトレーニングです。

バーベルやダンベルを安定させるため、インナーマッスルが関与して来ます。

尚、バーベルよりダンベルの方が不安定性が高まり、インナーマッスルの参加比率はより上がる傾向にあります。

そして、先程出した例のようにバランスボールなどを使い始めると、一気にインナーマッスル向けのトレーニングになって行きます。

体幹を始め様々な関節のスタビリティ能力が向上するので、現代人にとっては大変重要なトレーニングになると考えています。

但し、こうしたトレーニングはアウターマッスルの参加比率が落ちるため、筋肥大効果は余り期待できません。

基本アウターマッスルとインナーマッスルのトレーニングはトレードオフの関係になりやすいので、自身の理想や目的を考慮してバランスを取るのが大事です。

1つのやり方として、アウターマッスルとインナーマッスルのメニューを別個に組んでみるのも良いと思います。

また、サーキットトレーニングとしてインナーマッスルトレーニングとアウターマッスルトレーニングを組み合わせて見るのも面白いです。

或いは、アウターマッスルとインナーマッスルの両方を同時にバランス良く参加させるトレーニングを選ぶのも有りです。

一例として、片脚スクワットやリングディップスなどがあります。

この辺は工夫次第で無限にメニューを作れますので、自身の力量に応じて模索してもらえたらと思います。

と言う事で今日はアウターマッスルとインナーマッスルのお話でした。

参考になれば幸いです。

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黒羽根雄大黒羽根雄大

物理学専攻・元プログラマー、体を壊して仙人を目指す事になりました。

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