異論は余り無いと思いますが、筋トレは概ね健康に良いです。
血液のポンプ機能が高まり、全身の循環が良くなって、心臓病や脳卒中など高血圧系の病気を予防します。
食べ過ぎた糖質を積極的に燃やして肥満を回避し、インスリン感受性を高めてくれて糖尿病の対策にもなります。
骨密度は高くなり、骨粗鬆症の心配も減ります。
ストレスホルモンを適切に処理して、不安や鬱など心の病にも効きますし、成長因子が脳内に入り込んで記憶力や学習能力まで高めます。
ともかく筋トレする事は体にとってメリットが多いです。
多いのですが、しかし一方で致命的なデメリットもあります。
それは怪我のリスクが高まるとかそういう簡単な話ではなくて、もっと根本的でかつ複雑な内容です。
特にボディメイクを中心とするアウターマッスルを鍛える事で起こりますが、最近この事を強く実感するようになったので、今日はこの話をしてみます。
余り騒がれる事が無い筋トレのデメリットです。
目の前の筋肥大だけでなく、長期的な健康まで重視する人には参考になると思いますので、良かったら読んでいって下さい。
筋トレの隠れたデメリット
結論から言いますが、それは「代償動作」を起こす可能性にあります。
代償動作とは本来使うべき体の部位が弱った時などに、別の部位が身代わりとなってその役目を果たす事です。
例えばしゃがむという動作は本来、膝を抜いて股関節を曲げるべきですが、脚が弱かったり脚に痛みがあると腰椎から体を曲げがちです。
面倒くさがりな人が物を拾う時と同じような動作ですが、後者は見てわかる通り、間違い無く腰を痛めます。
代償動作は本来あるべき動きでは無いため、体に歪を生みます。
そして、こうした代償動作はアウターマッスルを鍛える事でも起き得ます。
例えば、脚を上げるという動作は本来、大腰筋が主導となる動作ですが、大腿四頭筋を単体で鍛え過ぎると大腿四頭筋がメインに働くようになります。
こうなると日常動作から大腿四頭筋がより働くようになり、大腿四頭筋は過緊張となって柔軟性を失います。
また、大腿四頭筋が過緊張になるとその周辺の血流が阻害され、末端に血液が届きづらくなって冷え性などを発症します。
更に、大腿四頭筋が働き過ぎると、逆に本来働くべき大腰筋が弱体化し、運動パフォーマンスを著しく落とします。
そして、大腰筋の弱体化は腰への負担に繋がり、腰痛のリスクも高まります。
実はこの症状は筋トレするしないに関わらず、ほとんどの現代人が抱えていますが、特に大腿四頭筋にターゲットを当てて鍛えている人は顕著になっていたりします。
怖いのは、代償動作は身に付いていく事です。
「脳はよくやる事に最適化される」
という言葉を聞いた事がある人もいると思いますが、代償動作はクセづきます。
本来あるべき動作の出力形式が失われて、怪我しやすい体の使い方が染みついてしまうのです。
僕がアイソレート種目に消極的なのも、この考えから来ているところが大きいです。
アイソレート種目は単関節種目とも言いますが、特定の筋肉に焦点を当てるため、他の筋肉の参加が抑制されます。
特に、末端部を自由に動かして行うようなレッグエクステンションや、「効かせる」ためのアームカールなどは運動連鎖の観点で不自然なため、代償動作に発展する可能性が多分にあります。
見栄えをデザインするには良い種目かもしれませんが、正しくない動きが染みついていってしまった時、代償動作の副作用を受ける可能性があるのです。
別に禁止するつもりはありませんが、こうしたアイソレート種目をやる時はその点を理解して行った方が良いと思っています。
最も致命的な代償
ちなみに、現代人に最も多い致命的な代償動作は「呼吸」で起こります。
呼吸は本来、主呼吸筋である横隔膜がメインで行われるものですが、今の人はほとんどが肩や首回りの副呼吸筋を使った胸式呼吸になっています。
ヒトは24時間に2万回以上の呼吸をしているわけですが、このエラーの絶え間ない繰り返しで肩周りの筋肉が過緊張を起こし、肩凝りや首の痛みが発生する事になります。
逆に、メインであるはずの横隔膜は弱体化するので、腹圧が弱まって姿勢が曲がり、それが腰椎を圧迫して腰痛を起こします。
肩凝りや腰痛に悩む人はとても多いですが、その根本的原因は今している呼吸の失敗である事が多いのです。
呼吸というのは簡単そうで難しく、その失敗は多くの代償動作を生みます。
例えば、座る姿勢というのは、本来横隔膜を使って、腹圧をかけて姿勢を維持しなければなりません。
しかし、背もたれのある椅子などに慣れてしまうと、腹圧を使わなくなり、自然と猫背になっていきます。
その猫背は大腰筋が常に収縮している状態を作りますが、これが長い間続くと、大腰筋は収縮したまま短くなり、やはり腰痛を起こす要因の1つに発展します。
この「筋肉が短くなる」という現象は意外と知らない人も多いですが、長い間伸ばされなくなった筋肉は、永久的に短縮してしまいます。
ハイヒールを履いている女性のふくらはぎが短くなるのもそのためです。
座る話ついでですが、椅子から立ち上がるという動作、実はこれも本来、脚の筋肉ではなく横隔膜の仕事です。
正しく息を吸って横隔膜が下がると腹圧がかかりますが、その時に体が少しだけ前傾する事になっています。
そして、その前傾した勢いを使って慣性の法則に従い、スッと立ち上がるのが正しい椅子からの立ち上がり方です。
余計な代償動作を伴わない最もエネルギーロスの低い動きです。
しかし、ほとんどの人は脚を使って強引に立ちます。
それは立派な代償動作となっていて、そのエラーの繰り返しにより体は硬直化していくのです。
代償を起こさない筋トレ
話を戻しますが、特定のアウターマッスルを鍛える事に終始していると、代償動作を発生させて、体の健全性を失う事に繋がる可能性があります。
本来は大腰筋や横隔膜などの体幹がメインで働くべきところを、脚や腕の力に頼って強引に動いてしまうようになり、そのせいで体の歪が大きくなって、やがて体を壊します。
若い内は有り余るパワーで力任せに動いても何とかなりますが、ある程度年を重ねてくると、致命的な欠陥になりかねません。
表面の筋肉をひたすら鍛えるボディビルダーや腹圧をベルト任せにしてしまうパワーリフターが最終的に怪我に悩まされる事が多いのが良い例だと思います。
そうならないために大事な事の1つは、アウターマッスルだけでは無くインナーマッスルも鍛える事です。
インナーマッスルとは姿勢を維持する筋肉の事ですが、大きく「体幹筋」「肩関節深層筋」「股関節深層筋」に分けられます。
ここは見た目には現れないので、鍛えるのは楽しくないかもしれませんが、長期的な健康を維持する上ではとても大切な部位です。
加えて、アウターマッスルトレーニングではなるべくコンパウンド種目(多関節種目)を中心にして、アイソレート種目(単関節種目)は控え目にするのが良いと思ってます。
また、運動連鎖の観点で言えば、コンパウンドの中でも末端部が自由に動かないもの、つまり、ベンチプレスのようなものより、ディップスや腕立て伏せが推奨されます。
更に言うと、プライオメトリックやクイックリフトなど、全身の連動性を高めるトレーニングを取り入れておくのも大切かと思います。
この辺は個々の目的によって悩ましい部分もあるとは思いますが、正しい動作を身に付けて、代償動作を極力減らしていくためには必須になってくるだろうと個人的には考えています。
これまで見栄え中心のアウターマッスルだけを鍛えて来た方は、一度トレーニングの仕方を見直してみてはいかがでしょうか。
長い目で体のメリットとデメリットを考えてみて下さい。
という事で、筋トレの代償でした。
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