「速く上げた方が強度は上がる」
と言うのは、筋トレ歴の長い方は知っていると思います。
ところが以前この話をしたところ、ある読者の方からイマイチ腑に落ちませんと指摘された事があります。
と言うのも、その方の体感として、ゆっくり上げた方が辛いという感じがあったからです。
確かにスロトレというメソッドもあるように、スピードは遅い方が大変で、刺激も強いイメージがあると思います。
筋肉もパンパンに張って、いかにも効いている感じがしますので、
「ゆっくり上げた方が強度は高まるのではないか?」
という素朴な疑問が湧くのは、ある意味当然かと思います。
そんなわけで今日はこの話をしてみたいと思います。
改めて、筋トレは速く上げるべきか?ゆっくり上げるべきか?についてです。
シンプル過ぎて軽く受け流しがちな疑問ですが、理由や背景を正確に押さえておく事は大事だと思っています。
今後のトレーニングにも応用できるようお伝えするつもりなので、興味のある方は見ていって下さい。
速く上げる
まず、筋トレの「強度」を高めるという事に絞って言えば、最初に言ったように速く上げるが正解になります。
その根拠はあのニュートン大先生が教えてくれています。
高校理科で教わる力の方程式(運動方程式)
F=m×a
というシンプルな公式がそれを示しています。
公式が出て来ると拒否反応を示す人もいると思いますが、これは全然難しいものでは無いので順を追って見てみましょう。
「F」というのはForce(フォース)の略です。
スターウォーズでお馴染みの言葉だと思いますが、これは「力」の事を指していて、筋トレで言えば「強度」に当たります。
「m」はmass(マス)の略で「質量」の事です。
単純に重さと思って下さい。
筋トレで言えば「扱う重量」に相当します。
「a」はacceleration(アクセラレイション)の略で「加速度」です。
速度の変化具合を示します。
筋トレで言えば「いかに速く上げるか」です。
という事で、先程の公式を筋トレに当てはめてみると、
強度=扱う重量×いかに速く上げるか
という事になります。
つまり、筋トレの強度は扱う重量が大きければ大きいほど、速く上げれば上げるほど強くなるという事です。
言い換えると、筋トレの強度を上げたければ、より重量を重くするか、より速く上げるかのどちらかになります。
重量を上げるのは誰でもわかると思いますが、同じ重量でも速く上げれば強度が高まるという事実も頭に入れておく事は大事です。
例えば、ベンチプレスで40kgを加速度10で持ち上げた時の強度は、
40×10=400
になるわけですが、加速度を15にした場合、
40×15=600
という感じで上がります。
これは加速度を10のままにして、重量を60kgにした場合と同じ強度です。
60×10=600
1点補足ですが、加速度は速度の変化の事で、単純なスピードではありません。
分かり易く言えば、トップスピードに至るまでの時間の短さです。
スポーツカーの馬力を示す1つの基準として、時速100kmに到達するまでの時間の短さがありますが、これは正に加速度の大きさを示しています。
加速度が大きいほど時速100kmに到達するのが早く、それだけ馬力(フォース)が大きいという事です。
加速度と強度の関係がまだ腑に落ちない方は、徒歩と全力疾走を思い比べてみて下さい。
50mをゆっくり10セット歩いても筋肉痛になる事はありませんが、全力疾走で10セット走ればほとんどの人が筋肉痛になると思います。
どちらも同じ自重で同じ距離ですが、加速度が変わる事でそれだけ強度に違いが出て来るという事です。
ゆっくり上げる
では、ゆっくり上げる方が辛く感じるのは何故か?
スロトレする事で筋肥大するのは何故なのか?
それは「強度」ではなく「ボリューム」が増えるからです。
ご存知の方も多いように、筋肥大効果を高めるパラメータは大きく「強度」と「ボリューム」の2つに分かれます。
この内、強度を高める方は先程話したように力の方程式から導かれます。
即ち、扱う「重量」と持ち上げる「加速度」です。
しかし、ボリュームはそれとは全く関係ありません。
ボリュームはその言葉が示す通り「時間」です。
正確に言うと、「負荷がかかっている時間」です。
ゆっくり上げると加速度は上がりにくいので、強度という意味ではかなり弱くなります。
しかし、ゆっくり上げるのでそれだけ時間がかかります。
筋肉に負荷の乗った状態が長時間続く事になるため、ボリュームの側面から筋肥大効果が見込めるようになるわけです。
ボリューム値を上げる方法としては他に、低重量高レップやインターバルの短縮などがあります。
高レップにすれば単純にトレーニング時間が増え、インターバルを短くすれば負荷がかかり続ける時間が伸びるためです。
ちなみに、こういったボリューム刺激は俗に「パンプ」という状態を作り、成長ホルモンの分泌が高まるとされています。
1つ注意点ですが、ボリュームは大きくし過ぎると、遅筋繊維の反応が強くなって筋肥大効果は下がります。
これは強度も同じ事で、単純に扱う重量を上げ過ぎてしまうと、神経系の反応が強くなってやはり筋肥大効果は下がります。
強度もボリュームも適切な値を設定するのが大切です。
トレーニングバランス
筋肥大効果として「強度」と「ボリューム」があるわけですが、もうお分かりの通り、この2つは反比例しやすいです。
速く上げれば強度は高まりますが、それだけボリュームが落ちます。
ゆっくり上げればボリュームが増えますが、それだけ強度が落ちます。
なかなか難しい問題ではありますが、現代フィットネスではそれを考慮し、2つのバランスを取った効率的なフォームやメニューが既に存在しています。
その最たる例が、
「速く上げて、ゆっくり下ろす」
です。
2秒で上げて4秒で下ろすみたいな事は色々なところで言われますが、強度とボリュームをバランス良く取り入れた方法の1つだと思います。
ちなみに、これは逆にすると怪我のリスクが上がるので注意して下さい。
特に速く降ろしてしまうと速筋繊維にかかる負担が高まり過ぎて、筋断裂などが起こる可能性があります。
話を戻しますが、他にもメニューの組み方として、
高強度低ボリューム → 低強度高ボリューム
というのも有名だと思います。
例えば、ベンチプレスで高重量を素早く扱った後、次にフライでゆっくり追い込むみたいなものです。
メニュー単位で負荷を変更していく形式ですが、多くの方が実践されている通り、効果は高いと思います。
最も非効率な速度
速く上げるか?ゆっくり上げるか?どちらを採用するかはお好みです。
その時の気分や環境の問題もあると思うので、やりやすい方を選択してもらえたらと思います。
但し、大事なのは中途半端にならない事です。
速く上げれば強度が上がります。
ゆっくり上げればボリュームが上がります。
でも、速くも遅くもない普通のスピードだと、どちらもも上がりません。
多くの人はこれをやりがちだと思います。
何故なら、一番楽だから。
速く上げるのは瞬間的な疲労を伴います。
ゆっくり上げるのは持久的な疲労を伴います。
誰しも疲労するのは好きでは無いので、その間で収まりがちなのです。
そうすると余り効率的ではない筋トレになる可能性があります。
トレーニングしている方は改めてこの事実を確認し、自身のメニューの最適化を図ってもらえたらと思います。
と言う事で今日はニュートンの方程式をお借りして、筋トレとスピードの関係性についてお話しました。
少しでも参考になれば幸いです。
確かにそうですね。
自重トレーニングだとよく分かります。
速度を速く挙げると早くききます。
はじめまして
強度かボリュームか
非常にためになりました。
やっぱり何事にもバランスが大切ですね