意外かもしれませんが、腰痛の方は姿勢が良い事が多いです。
腰痛の度合いが酷くなればなる程、姿勢の良さは際立って来ます。
何故なら、正しい姿勢でいないと辛いから。
少しでも姿勢が悪くなると激痛に襲われてしまうため、必然と姿勢が強制されてくるわけです。
日頃から背筋が伸びて猫背にならないのは当たり前として、椅子に座っている時も足を組むような愚かな事はしません。
常に骨盤が立って背中が丸まらないようにしています。
また、体が硬直しないよう、姿勢を頻繁に変えます。
1つの姿勢を取り続けていると筋肉は癒着してしまうのですが、腰痛の人はそれが自然とわかってくるので、椅子にも長時間座り続ける事はせず、仕事でも数十分程度で1度立ち上がる癖が付いています。
立っている時も「休め」のような片足に体重を預ける姿勢を取らず、二足で重心をこまめに移動させながらバランスを取って立っています。
こうやって腰へのダメージを極力少なくしているわけですが、実際それは腰痛対策の1つの有効な手段となります。
正に怪我の功名、痛い思いをする事で姿勢が正されていったわけです。
しかし、実はそうした正しい姿勢が身に付くが故に、返って体の他の部位を壊したり、腰痛そのものが慢性化してしまう事があります。
今日はこの話をしてみます。
良かれてと思っていた事が腰痛の事態を悪化させていく現実、そして、それを回避するための根本的な対策をお伝えするので、興味のある方は読んでいって下さい。
2つの腰痛対策
さて、個人的に腰痛対策は大きく2つに分けられると思っています。
- 日常生活で腰にかかる負担を減らす事。
- 腰に負担がかかる際、守る技術を身に付ける事。
この内、1の対策は行われている事が多いです。
冒頭で話した正しい姿勢は正にこの話で、日常生活における腰の負担を減らしています。
これはこれで絶対にやらなければならない事だし、むしろ腰痛で無い人も意識しなければいけないと思っています。
しかし、それだけでは不十分です。
と言うのも、いくら姿勢に気を付けたとしても、現実的には腰に負担がかからざるを得ない場合が出て来るためです。
その時に正しく腰を守る方法が身に付いていないといけないのですが、1の対策だけに頼っている人は、その対処がお粗末である事が多いです。
それが一番顕著に出るのが、しゃがむ動作です。
しゃがむという動作は上の写真の通り、股関節がメインに動きます。
多くの人は下のように腰椎から曲げてしまって腰に負担がかかりますが、腰痛の人はその事を重々承知しているため、そんな事はしません。
それはそれで立派なのですが、余りにも腰を真っすぐに固定していたいがために、今度は股関節をほとんど曲げず、膝を中心に曲げてしまうのです。
コンサルでスクワットをやってもらう時も、腰の弱い人は皆、膝から曲がる癖が付いているのがわかります。
膝を主軸にしゃがむと、膝関節に大きな負担がかかって膝を痛めます。
おまけに膝を曲げると大腿四頭筋が強く働く事になるのですが、大腿四頭筋は現代人が酷使しやすく、筋肉の癒着を起こす可能性が出て来ます。
大腿四頭筋の筋膜リリース経験者はここがいかに固まっているか実感していると思いますが、それを更に助長させかねないのです。
先程も言った通り、しゃがむという動作は股関節が主軸にならねばいけません。
股関節は動きに適した関節で、尚且つ人体で最も丈夫なお尻がくっついています。
お尻は筋肉と脂肪が一番多く付いている部位なので衝撃を吸収しやすく、この関節を使っている分にはちょっとやそっとの事では怪我をしません。
更に、股関節から曲がる事でハムストリングの参加率が上がるため、大腿四頭筋の緊張が減って、脚の硬直化を防ぐ事が出来ます。
人間の体は股関節からしゃがむように設計されているのです。
でも、股関節から曲がると腰が怖い
腰痛の方はこう考えると思います。
確かに股関節から曲がると、腰が体の中心線から外れるため、モーメントの関係で腰にある程度の負担が強いられます。
この時に出て来るのが先程の2の対策です。
「腰に負担がかかる際、守る技術を身に付ける事」
この準備があれば股関節から曲がる事が出来ます。
そして、その具体的な施策が「腹圧」です。
直立二足歩行になった人間はどうしても腰に負担がかかりやすいのですが、腹圧を適切にコントロールする事で腰を守るよう進化して来ました。
腹圧の事を知らない人もいるかもしれないですが、わかりやすい例で言うと息を吸った時にお腹がプクーっと膨れるアレです。
これにより腹腔の密度が高まって安定性が増すわけですが、訓練すると息を吐きながらも圧をかけ続ける事が出来るようになり、腰にかかる負担を調整できるようになります。
日常ではしゃがむ事以外にも腰に負担がかかるケースは色々ありますが、それらは全て腹圧により耐える事が可能です。
しかしながら1の対策のみ、つまり通常時の姿勢だけ気を付けている人は、この技術が身に付き辛い傾向にあります。
それは腹圧という概念を知らないという事もありますが、正しいと思っている姿勢で腰を守れている事への慢心と、緊急時に腰を守る施策が頭から抜け落ちている事にあります。
そのため、いざという時に腹圧により腰を守る事が出来ず、その度に腰痛をぶり返し、結果として腰痛を慢性化させてしまうのです。
ここでパラダイムシフトが必要です。
腰痛の根本的な原因は「姿勢が悪い」事では無く、「腹圧が適切にかけられない」という転換です。
腹圧が足りない状態で姿勢ばかりに気を使っているから、不自然な動作が身に付いて体を壊してしまう事になります。
腹圧が足りないせいで腰を守る事が出来ず、いつまでも腰痛が治りません。
根本にあるのは腹圧であって、姿勢は表面的な問題に過ぎません。
そもそも腹圧が正しくかかるようになると、姿勢は自ずと正しい位置にキープされるようになります。
わざわざ意志の力でコントロールせずとも、自然と背筋は伸びて腰に負担がかかる事は無くなるのです。
腹筋 VS 腹圧
こういう事を言うと、
「しゃがむ時には腹圧をかけてるつもりです」
と言う人もいますが、それは腹圧を勘違いしている場合が多いです。
例えば、筋トレのスクワットをする時に「フッ」と息を止めてお腹に力を入れる事がありますが、あれは腹圧ではなく「腹筋」です。
勘違いしやすいですが、腹筋と腹圧は別物で、むしろ腹筋は腹圧を邪魔する事が多々あります。
実際、現代人の多くは腹筋に頼り過ぎて、腹圧がほとんど使われていません。
腹筋というのは力は結構強いのですが、持続力が余りありません。
筋トレの時のように瞬間的に力を出す事には向いていますが、日常生活や競技などで持続的に力を出し続ける事は出来ません。
一方で腹圧は持久力が半端ではありません。
腹圧は呼吸を続ける限り無限に圧をかける事ができて、極端な事を言えば寝ている時以外ずっと高めておく事も出来ます。
当然、腰痛の人が腰への負担を減らすのに使うのは腹圧が理想で、これが出来ればどんな時でも腰を守る事が可能になります。
腹圧を鍛える
ここまでしきりに腹圧と言っていますが、腹圧をかける時に使う筋肉は何か?
いくつか種類があるのですが、元締めは「横隔膜」です。
横隔膜はご存知の通り、呼吸する時に使われる筋肉で、胸腔と腹腔を分け隔てている薄いドーム状の筋肉です。
腹式呼吸で使われ、息を吸う時に下がり、息を吐く時に上がります。
一般人は余り重要視しませんが、インナーマッスルの中核と言われ、あらゆる動作の中で最初に稼働する筋肉です。
また、意識と無意識の両方で制御される唯一の筋肉でもあり、人間が生まれて最初に使う筋肉でもあります。
そんな重要な横隔膜ですが、現代人の多くは弱体化しています。
特に腰痛の人は顕著に弱くなっている可能性があります。
原因は色々とありますが、1つは胸式呼吸が主流になって、横隔膜による腹式呼吸が余り使われなくなってしまった事。
もう1つは腹筋がよく使われるようになって、横隔膜による腹圧維持が余り使われなくなってしまった事。
2重の原因で横隔膜は弱体化し、腰痛も深刻になって行きます。
ですから、我々はもっと横隔膜を鍛える必要があります。
そのために必要な最初のステップは、腹式呼吸で横隔膜をフルレンジで動かす訓練をする事です。
胸を使わず腹のみで呼吸をし、めいいっぱい息を吸って、最後まで吐き切ります。
横隔膜は鍛える事でしっかり筋肥大しますので、たくさん動かしてあげる事により、本来の強さを取り戻して行けます。
こうしたインナーマッスルのトレーニングというのは、動作が地味で実感も得にくいですが、非常に大切です。
見た目の変わる腹筋を鍛えた方が楽しい事もわかりますが、腰を守るシステムの根本は腹圧にあります。
それを無理して腹筋で何とかしようとすると、体は誤作動を起こして腰痛を悪化させます。
腰痛防止のためにシットアップなどで腹筋を鍛えると逆に腰を壊す人が多いのは正にそれを物語っています。
とにかく呼吸を意識して腹圧をかけてみて下さい。
それが腰痛を改善させる一番の近道になるはずです。
PS:
腹圧や横隔膜については筋トレの代償でも詳しく話しているので、興味あれば合わせて見てみて下さい。
暑い日が続いて体力を消耗しますが、緩消法をすると腰が軽くなり、気持ちまで元気になります。