「女性は男性の2倍、鬱になりやすい」
特に男性は余り知らないかもしれませんが、これは精神医学の世界ではよく言われる事です。
女性はその身体的な特質から、鬱や不安などの精神的な病にかかりやすく、男性には無いリスクを多く抱えています。
女性ならではの特質と言えば、月経があります。
毎月生理に伴ってホルモンバランスが崩れるため、心が不安定になり、それと連動して体調を崩す人も少なくありません。
月経前症候群(PMS)に苦しむ女性はたくさんいます。
そして、女性は男性と違って妊娠します。
赤ちゃんを宿す事でやはりホルモンバランスが崩れ、精神的な問題を抱えやすくなり、更に陣痛の痛みによって体の調子も悪くなります。
産んだら産んだで今度は産後の鬱が待っています。
産後は急激なホルモンの減少が起こり、気分が不安定になりやすいのです。
初出産の女性の10~15%が産後に鬱を発症し、ある日突然襲われて、1年以上悩まされます。
妊娠と言えば、女性は産まれる子どもへの責任があります。
母親の体調、特に心の状態は胎児に大きく作用する事が既に証明されています。
ストレス、不安、鬱は甚大な影響を及ぼし、流産、低出生体重、出生異常、死産をもたらします。
また、幸せでない母親から生まれた赤ん坊は神経質で反応が鈍く、ぐずりやすく、睡眠のパターンも安定しない事がわかっています。
追跡調査においても、活動過多や認知障害になりやすい事まで示されているのです。
更に、女性は老後に閉経を迎えます。
生理が終わる事でホルモン分泌量が減り、更年期障害になる人も多数出て来ます。
ほてり、寝汗、怒りっぽさ、情緒不安定など、大半の人は2~3の症状を経験する事になります。
更に、閉経後は骨はカルシウムの吸収率が落ちて、骨粗鬆症が起こってきます。
女性は男性の10倍骨粗鬆症になりやすく、実に日本人女性の1500万人が患っています。
骨粗鬆症で厄介なのは転倒による骨折です。
特に股関節部位を骨折すると絶望的で、活動レベルが著しく低下してしまい、1年以内に約20%が亡くなってしまいます。
実は股関節の骨折で亡くなる女性は、乳癌でなくなる女性よりも多いのです。
女性の骨量は30歳にピークを迎え、その後は更年期まで毎年1%ずつ減少し、更年期になると減少ペースは倍になります。
60歳の頃には女性の骨は約30%が消えてしまい、非常に骨折しやすい体になっているのです。
ついでに言うと、女性は男性よりもアルツハイマーになりやすい事までわかっています。
これもホルモンの変化による精神的な影響と考えられますが、年を重ねていくと認知症にも悩まされる事になるのです。
他にも色々とあると思いますが、女性は男性が経験しえないリスクをたくさん抱えて生きています。
そこで、今回はそんな女性に焦点を当てて、女性ならではの症状とその回避方法についてお伝えしてみます。
最近はお客様にも女性の方が増えて来ているので、たまには女性に特化した記事を書くのも良いのではないかと思った次第であります。
僕自身は男なので女性の事を完全にわかっているわけではないですが、これまで勉強してきて確信を持って言える事を述べてみたいと思います。
女性の方にとっては人生にダイレクトに関わってくる内容だと思うのでご自身のために是非読んで下さい。
男性の方には直接関係は無いかもしれませんが、母親、奥さん、彼女、祖母、姉妹など身近な方を想定して読んでもらえたらと思います。
今回の内容を知っておけば、身内が苦しんでいる時も良きアドバイスができるようになるはずです。
性ホルモンのコントロール
それでは始めていきたいと思いますが、鬱を筆頭に女性が抱え込んでしまう疾患の原因となるのは「性ホルモン」です。
性ホルモンは血中を循環する強力な伝達物質で、性的な発達だけでなく脳に大きく影響を及ぼします。
具体的にはエストロゲンとプロゲステロンという2つのホルモンが関わっています。
エストロゲンは排卵前に基準値の5倍に増え、その後2週間程増減して、月経が始まると安定します。
妊娠中は通常の50倍に増え、閉経期には減ってやがて出なくなります。
プロゲステロンは排卵後に増え始めて10倍まで増え、月経直前にピークに達します。
妊娠中は通常の10倍に増え、閉経期には減ってやがて出なくなります。
この2つのホルモンは幸福感や意欲の根源となるセロトニンやドーパミン受容体の発現を促すため、精神状態を大きく左右する事になるのです。
つまり、これら性ホルモンを上手にコントロールできるかどうかが鍵になります。
では何をすればいいのか?
現代の女性はここで抗鬱剤や抗不安薬に手を出してしまう人が多いですが、そんな対症療法的に症状を消しても一時凌ぎに過ぎません。
むしろ、副作用でダメージが蓄積され、酷くなると脳が物理的に変形してしまって一生元に戻れなくなったりもします。
ケーキなどの単純糖質に逃げ込む人も多いですが、すると高血糖になって生活習慣病のリスクが上がり、体形的にも醜い肥満体になってしまいます。
では何をしたらいいのか?
それは、「心拍数を上げる」です。
女性に起こりやすい精神問題を解決するのに最も効果が高く、しかも即効性があり、尚且つ副作用が一切無いのが、心臓と肺を動かす事です。
つまり、運動です。
運動がストレスを発散して心の状態を正常に保つというのは何となく聞いた事があると思いますが、これは脳科学の分野からも実証されています。
具体的にどういう事が起こるかというと、1つは運動により血中トリップトファンのレベルが上がります。
トリプトファンはアミノ酸の一種なのですが、先程言った脳内物質のセロトニンの材料であり、すぐに幸福感や安心感をもたらしてくれます。
運動すると気分が良くなると思いますが、その正体の1つでもあります。
また、運動により他の脳内物質であるドーパミンやノルアドレナリンが分泌され、シナプス伝達が整理され、情緒のバランスが取れるようになります。
更に、運動は神経伝達物質のGABA(ガンマアミノ酪酸)なるものを生産する遺伝子のスイッチが入るのですが、これが過度の興奮を抑制してリラックスさせてくれます。
極め付けは、ストレスホルモンの分泌に関わるHPA軸というリレーシステムを監視してくれるため、ストレスへの対応力そのものも高めてくれるのです。
これらは全て心肺機能を動かして心拍数が通常よりも上がった事をトリガーに発動するため、体を動かす事がポイントになってきます。
実際、有酸素運動がPMSの症状を和らげるのは、世界中の調査で明らかになっています。
1800人以上の女性を対象にした大規模調査でも運動によりPMSの症状が和らいだ事がわかっています。
症状が軽くなるだけでなく、集中力低下や落ち込み、衝動的な行動も軽くなると報告されています。
偉大なる有酸素運動
ここで重要なのは負荷の高い筋トレをするのでは無く、中強度の筋トレやランニングをする事です。
無酸素運動ではなく、有酸素運動が有効です。
デューク大学で中年女性23人を有酸素グループと、無酸素グループに分けて行った研究があるのですが、精神面で目覚ましい改善が見られたのは前者でした。
一番簡単に行えるのは、走る事でしょう。
心拍数をある程度高めながら走り続けるのです。
この効果はPMSだけに限りった話では無く、妊娠中の女性にも有効です。
よく「妊娠中は運動するべからず」と言って全く運動しない事を勧める人がいますが、その考えはもう時代遅れです。
現在の世界標準は、妊娠中でも1日30分程度の有酸素運動が勧められています。
運動は妊娠期間中に異常に高くなるエストロゲンとプロゲステロンを調整し、気分の安定をもたらしてくれるのです。
66人の妊婦を対象にしたイギリスの調査でも、有酸素運動による精神的作用が認められました。
妊婦をランニングマシン、水泳、工芸、何も無しの4グループに分けて過ごさせたところ、運動した2グループのみ気分が改善されたのです。
また、有酸素運動は陣痛も和らげてくれます。
これはランナーズハイでお馴染みのエンドルフィンが増加する事で、痛みが緩和されるためと思われます。
ドイツの運動と陣痛の調査でも、50人の妊婦の内84%がエアロバイクに乗った時に血中エンドルフィンが上がって陣痛が和らいでいます。
運動は胎児にもプラスの影響を与えます。
妊娠中に運動すると母体と胎児を繋ぐ燃料供給ラインが強化され、栄養と酸素が確実に届くようになります。
生後5日目に比較すると、運動を習慣にする母親から生まれた子どもは、刺激に対する反応が良く、早く落ち着きを戻す事がわかっています。
また、よく運動する母親から生まれた子どもは神経学的にも発達している事が示されています。
有酸素運動は子宮内の胎児を揺さぶり、撫でたり抱いたりするのと同様の刺激を胎児に与え、脳の発達を促すという研究者もいます。
追跡調査で5歳児の子どもを調べてみると、運動していた母親から生まれた子どもの方が、IQと言語能力で優れている事もわかりました。
有酸素運動は産後の鬱にも効果があります。
オーストラリアで行われた産後鬱の調査でも、有酸素運動をしたグループの母親は鬱の点数が目覚ましく下がりました。
イギリスの女性1000人を対象にした調査でも、産後に有酸素運動する事で気分の問題が解決した事が示されています。
有酸素運動は閉経を迎えた女性の心を回復する事もわかっています。
オーストラリアにおける883人の更年期の女性を対象とした調査では、運動量と更年期障害のレベルに強い反比例の関係が認められています。
よく閉経後にエストロゲンとプロゲステロンを注入するホルモン補充療法を行う人がいますが、これは副作用で認知症のリスクが2倍になってしまうので危険です。
逆に、運動は認知症のリスクを半分に軽減します。
ケベック州ラバル大学が行った調査では、運動している女性はそうでない女性に比べて認知症になる確率が50%低くなりました。
運動はホルモン減少の不調を整え、認知機能の低下を抑制するのです。
運動は骨も強化してくれます。
骨の強化と言うと、カルシウムやビタミンDの話になりがちですが、最も骨を強くする方法はエクササイズです。
但し、この場合に限っては走るだけでは足りず、スクワットなどの筋トレがある程度必要です。
以前にも言った事がありますが、重力に逆らう事が何よりも骨に効くのです。
とにかく走れ
優先してやって欲しいのはランです。
鬱や不安や情緒不安定など全て解消されます。
生理前後の不調も和らぎます。
妊娠中や産後の不安定な気分も落ち着きます。
生まれてくる未来の子どもの発育も良くなります。
そして、加齢に伴う骨密度の低下を回避し、ボケの防止に繋がります。
注意点ですが、ウォークでは少し足りません。
勿論やらないよりは全然いいのですが、最初に言った通り、心拍数を上げて下さい。
「ハァハァゼェゼェ」言うような状態になって初めて神経伝達物質やホルモンの調整が行われます。
心筋と横隔膜を積極的に使って走るのです。
既に抗鬱剤が手放せないという深刻な人は、運動にもっと負荷をかけて下さい。
ランニングしながら、時たま全力疾走を入れるのが良いと思います。
所謂、インターバルトレーニングになるわけですが、負荷の高い運動がイライラ、不安、鬱、情緒不安定に劇的な効果をもたらす事もわかっているのです。
そして、走る前か後に少しスクワットをして下さい。
骨粗鬆症症予防のために軽くでもいいから筋力トレーニングを入れるのが好ましいです。
できればこれらを習慣にして下さい。
「そんな時間はありません」と言う人もいそうですが、運動の時間は無理くりねじ込んで作る必要があります。
残念ながら生活が込み入った時、女性が真っ先に切り捨てるのが運動なのですが、それは最もやってはいけない事です。
運動は過小評価されがちですが、非常に効果が高いです。
運動は神経伝達物質やホルモン生産の火付け役となり、脳に受容体を増やし、遺伝子のスイッチをオンにして、プラスのサイクルを維持してくれます。
総じて運動は女性の幸福感や生活満足度に多大な影響を及ぼす事になるのです。
逆に言えば、運動しかありません。
運動は心を強くし、鍛え続けてくれる唯一の方法です。
「体」を動かす事が「心」を癒す最良の方法とは人体の神秘を感じますが、それが現実です。
心と体は繋がっているのです。
早速ランニングシューズの紐を結び、外に出かけてみましょう。
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