日本の死因ランキング2位は心疾患、4位は脳血管疾患です。
いずれも動脈硬化や不整脈など、主に「血管障害」で起こります。
代表的なのが心筋梗塞と脳梗塞ですが、血管が詰まったり破裂したりして、突然死を引き起こす非常に恐ろしい病気です。
血管障害の原因は一般的に、甘い物や脂っこい物の食べ過ぎ、運動不足、飲酒喫煙、人間関係のストレスなどが挙げられると思います。
確かにそれらもありますが、実はそれ以上に重要な可能性があるのに日本ではスルーされている隠された原因があります。
今日はその話をしたいと思います。
血管系の障害に悩んでいたり不安を感じている方はもちろん、長期的な健康に関心のある方は読んでみて下さい。
隠された血管障害の原因
結論から言うと「騒音」です。
一見すると無関係そうですが、騒音と心筋梗塞の発症リスクに相関関係がある事はWHOでも示されている事実です。
道路交通騒音80dBに被爆し続けると、心筋梗塞のリスクは1.5倍になるとされ、日本でも北海道大学の松井利仁教授が長期に渡って警鐘を鳴らしています。
そもそも「音」は思っているよりもずっと身体に影響を与えます。
音とは「空気振動」の事で、耳だけで感受しているわけではありません。
骨伝導という言葉があるように、音は全身で刺激を受け取っています。
そして、音のエネルギーは音の大きさ(音圧)の2乗に比例しますので、大きな騒音が身体に大きな影響を与えるのは至極当然の事です。
ポルトガル・ルソフォナ大学のマリアナ ・アルベス・ペレイラ博士の研究では、長時間の騒音に晒された心臓の心膜は3層から5層に増え、血管壁まで肥厚する事がわかっています。(左:Before、右:After)
筋トレで筋肥大するのと同じで、長年に渡って騒音に晒され続けた血管は外力に耐えるために太くなり、結果として動脈は狭くなってしまうのです。
ちなみに、よく騒音問題で耳栓すれば問題無いという人がいますが、この図からわかる通り、空気振動は全身で受け止めているため、耳だけ塞げば大丈夫という事にはなりません。
イヤーマフもノイズキャンセルイヤホンも同様です。
警戒すべき騒音
騒音の中で最も危険なのが、低い周波数の騒音です。
擬音で言えば「ゴー」「ブーン」「ウィーン」などで表され、実態としては交通騒音、航空機騒音、工事音などが典型です。
こうした低い騒音は血管障害だけでなく様々な健康問題を引き起こします。
有名なのは1977年、西名阪自動車道による騒音事件で、多くの周辺住民に頭痛、不眠、イライラ、肩こり、目まいなど多岐に渡る不定愁訴が認められました。
低い音の何が問題かと言えば、1つは貫通力が高い事です。
音が低いという事は裏を返せば波長が長いという事で、要は遠くまで届くのです。
つまり、その騒音から距離を取ろうが防壁を挟もうが、逃げられません。
もう1つ、低い音は脳内で特別に処理される事です。
そもそも自然界において低い音はライオンなど捕食者の唸り声だったり、地震や雷など天災の周波数に近いため、生命にとって危険信号です。
そのため、生体組織は低周波音に対して敏感に作られており、聴覚器の中には卵形嚢・球形嚢という低周波音に反応する器官もあります。
危険信号が脳で捉えられれば自律神経は交感神経に傾き、コルチゾルなどストレスホルモンにより筋肉と血管は収縮し、免疫は過剰に働いて自らの細胞まで攻撃するようになります。
これが慢性的に続けば、どれだけ危険な事かはわかる事でしょう。
騒音+低周波音の組み合わせは人体にとって害悪そのものです。
換気扇や室外機が回っていると眠れないという人がいますが、それは当たり前の事で危険信号を受け続けているからです。
米軍基地や自衛隊駐屯地でも度々騒音問題が取り上げられるのも、イデオロギー云々の前に健康被害がキツイからです。
低い騒音による疾患を海外では「VAD(振動音響疾患)」と呼び、前途したペレイラ博士の研究により血管、心臓、気管、肺、腎臓の構造的変化が見られる事がわかっています。
その結果、血圧上昇、頻脈、脳梗塞、呼吸不全、遅発性てんかん、平衡障害、甲状腺機能障害、自己免疫疾患、糖尿病、癌の発症が有意に上がります。
日本でも故・汐見文隆医師が「低周波音症候群」と名付けて研究を進め、同様の障害が発生するエビデンスをたくさん残されています。
また、低周波音で著しく体調を崩す「上半規管裂隙症候群」という病気もあり、前途した松井利仁教授によりメカニズムが公にされています。
最も怖い聞こえない騒音
さて、音は低くなればなるほど聞こえにくくなる特徴があります。
人間の可聴域は2~2kHzと言われていて100hz以下は感じ取りにくいのですが、そういう聞こえにくい超低周波の騒音が最も危険です。
代表的なのが「家庭用ヒートポンプ」と「風力発電」です。
風力発電は地域が限定されますが、家庭用ヒートポンプはエコキュートやエコジョーズとして広く普及しており、全国的に身近な音源かと思います。
これら機械から発せられる音は周波数が低過ぎて人間の耳では捉えにくいですが、実態としては騒音を出し続けており、身体は被害を受け続けています。
正にサイレントキラーで、僕は以前「痛みの無いナイフ」と表現した事もあります。
風力発電の多いヨーロッパでは「ウインドタービンシンドローム」と呼ばれ、米国・ジョンズホプキンズ大学のニーナ・ピア・ポイント博士が実態を明らかにしました。
彼女の文献からも低い騒音が頻脈や血圧上昇などの血管障害に繋がるのはもちろん、睡眠障害、頭痛、耳鳴り、目まい、吐気、記憶力低下などが起こると記されています。
聞こえにくい事から原因を特定しづらく、被害者は途方に暮れ、医者は精神科に回しがちですが、真犯人は身近な騒音だったりするのです。
聞こえないから大丈夫?
聞こえにくい低い騒音ほど危ないというお話をしましたが、日本では「聞こえないから害は無い」と言い張る人達がいます。
そういう方に聞き返したいのですが、見えない光に害は無いのでしょうか?
光は音と同じ波で、人間に感じ取れる部分と感じ取れない部分があります。
光を感じ取れて実際に見える部分を「可視光」と言いますね。
可視光の外側には人間が見えない「紫外線」という光があり、その紫外線が日焼けの原因となる事は誰もが納得していると思います。
更に、紫外線の外側には昆虫にも見えない「X線」という光があり、X線がレントゲンに使われ、過度な曝露で被害が出る事も知られています。
見えない光が体に物理的作用をもたらす事がわかっているのですから、低周波の聞こえない音も体に影響を与えると考えるのが当然ではないでしょうか。
ちなみに、レントゲン技師にサングラスをかけさせても被爆してしまいますが、これは騒音に耳栓で対抗しても根本的解決にならない事とよく似ていると思います。
話を戻しますが、聞こえにくいから人体に悪影響が無いという事では無くて、聞こえにくいからこそ危ないと考えるべきなのです。
別に難しい話では無いと思いますが、残念ながら日本ではこの理屈が通らず、未だに低周波音は「聞こえにくいから害は無い」と処理されています。
こうした問題は1つ前の記事で書いた放射線とよく似ていると思います。
遡れば水俣病とも同じで、利権が健康被害を隠す構造は昔から変わりません。
危険な騒音を回避するために
騒音問題は累積的なので住環境が何より重要です。
できれば一度は騒音計で自宅周辺を調べて見る事をおススメしたいと思います。
但し、一般的な騒音計は周波数が低くなるほど音圧が小さく表示される「A特性」という補正が入っているので注意が必要です。
例えば、実際には70dBの航空機騒音が50dBと表示されたりするのですが、20dBの差は実際の圧力(パスカル)に換算すると10倍の差になります。
そして、既に述べた通り音のエネルギーは音圧の2乗に比例するため、体への影響としては100倍もの差が生じる事になってしまうのです。
ですから、正確に測定したい方は「C特性」の騒音計を使って下さい。
C特性も少し補正はかかるものの、A特性に比べると遥かに実態に近くなります。
本当は「Z特性」という完全フラットのものが一番信頼できるのですが、今は業務用の高価なものしか無く、個人が利用するのは現実的では無いと思います。
それから、風力発電からは出来るだけ距離を取るようにして下さい。
一概には言えませんが、大きな風車の場合、20km離れる必要があるとも言われます。
また、近隣のエコキュートやエコジョーズの位置と動作を確認をしておく事も重要です。
夜中に低周波騒音を出し続けるヒートポンプは着実に被害を累積します。
紀元前から続く騒音問題
実は騒音は紀元前600年から問題になっており、当時ハンマーを使用する金属加工は市内で禁止されていました。
古代ローマでも荷馬車の鉄輪に関する騒音の法律があり、中世ヨーロッパでも特定の都市では夜間の馬車の使用が禁止されていたりと、人々は昔から騒音が体に良くない事を肌で感じていたのだと思います。
今回は現在わかっている範囲で、騒音が及ぼす被害の実態をご紹介しました。
特に低周波と組み合わさった騒音は重大な健康問題に繋がる事を知って頂き、今後の生活に役立てて頂けたらと思います。
最後に心膜肥大の画像を引用したペレイラ博士の論文をご紹介しておきます。
工場勤務で騒音に関する管理項目がある理由にもつながりますね。
非常に興味深い内容でした。
配信していただきありがとうございました。
私は、仕事がらフォークリフトの音を1日8時間近く聞いていなければなりません。
こういった状況化での対処方法も教えていただけると大変嬉しいです。