あっちも機械、こっちも機械。
最近つくづく感じるのですが、体を鍛える時にマシンを使う人がどんどん増えて来ています。
先日も久しぶりに街のジムに行ってみたのですが、9割以上のスペースがマシンで覆い尽くされていました。
フリーウェイトや自重のスペースはほとんどありません。
皆さん、せっせと機械を押し、機械を上げ、機械を引いています。
テレビや音楽を聞きながら一向に前に進む事の無いランニングマシンで汗をかいています。
個人的にこの光景は何か奇妙に見えてしまうのですが、ともかく、これが現代で最も多いトレーニング風景です。
しかし、こんな事言うと反論もあるかもしれませんが、僕はマシンによるトレーニングには疑問があります。
というか、反対の立場です。
確かにマシンには効率的な面が多々あります。
ピン1つで重さを変える事ができるので、ダンベルのようにスクリューを回す手間がかかりません。
体幹をピタッと固定してくれるので、鍛えたい筋肉を集中して鍛えやすい面もあります。
運動の軌道も固定されているため、重りが落ちたりする心配も無いし、筋肉が必要以上に伸び切らず安全です。
また、座ったり寝たりの姿勢で行う事が多いため、心肺機能を余り使わず、疲労感が少なくて済みます。
しかし、大きなデメリットもあります。
それは、使えない筋肉が作られるという事です。
使えない体
マシンを使う事で確かに筋肉は発達すると思いますが、その筋肉は日常生活において非常に使い勝手が悪くなります。
最も大きな原因は「固定」です。
マシンは自分の鍛えたい部位以外が固定されます。
例えば、腕を鍛えるアームカールのマシンであれば、腕以外は全く動かせなくなります。
腰や肩は勿論、肘すらも固定されるので、純粋な腕力のみでマシンを引き上げねばなりません。
すると確かに腕の筋肉は発達するでしょう。
しかし、その腕の筋肉は実用面で非常に使い勝手が悪くなります。
何故なら、その動きは本来、人間が使う腕動きでは無いから。
ご存知の通り、人間は魚類から進化した脊椎動物です。
そして、脊椎動物の運動は背骨や腰周りなど「体幹」が中心となるのが基本です。
脊椎周りの体幹が主導筋となって働き、それに対して四肢の筋肉が従属的に使われるというのが本来の動き方です。
少し難しく聞こえたかもしれませんが、ちょっと想像してみて下さい。
引越しで、本を詰め込んだ重い段ボールを持ち上げる場面が来たとしましょう。
あなたはどのように持ち上げますか?
恐らく、背中の反り返る力を使って一気に持ち上げないでしょうか?
腰を曲げたまま、アームカールのように腕だけで持ち上げる事はしないはずです。
これじゃあ軽いものしか持ち上げられません。
確かに物を掴んでいるのは手なんですが、持ち上げる動作のメインはあくまで背中の筋肉。
腕の力はおまけに過ぎません。
しかし、マシンによるアームカールのトレーニングなどをこなしていくと、体はその動きをどんどんと覚えます。
体幹を使わず、腕のみで物を持ち上げようとする動きが染みついていきます。
これはクセになるとかそういうレベルの話ではなく、腕の筋肉が全身運動の信号から外れてしまいます。
腕の筋肉が勝手に独立して、どんな時でも単体でしか動かなくなって、全身から取り残されてしまうのです。
その結果、見た目はモリモリのマッチョのくせして、いざ引越しの手伝いをしてもらったら、重いものを持ち上げられず、しかもすぐにバテてしまうという残念な人になるわけです。
実際に僕もそういう人を見た事がありますが、気の毒です。
見かけ倒しとは正にこの事。
バランスの消失
マシンの弊害はこれだけではありません。
先程、固定がマズイと言いましたが、軌道が固定されているのも非常にマズイ。
確かに怪我はし辛くなるのですが、その分バランス感覚を失います。
本来、人間は物を押したり、持ち上げたりする際、力を込めると同時に、バランスを取っています。
例えば、ベンチプレス。
大胸筋の王様とも言われるこのトレーニングは、高重量を扱うため、かなりのバランスを問われます。
一見、上下だけの運動に見えるかもしれませんが、実は前後左右にブレまくる軌道を常に修正し続ける必要があります。
やった事がある人はわかると思いますが、これはなかなかしんどい作業です。
一方、マシンは軌道が固定されているため、バランス感覚がいつまでたっても育たないのです。
そんな状態で筋肉だけが発達するものだから、いざ物を持ち上げようとした時、バランスを崩してこけます。
やはり、使えない見かけ倒しの筋肉となるわけです。
非常にカッチョ悪いよね…
マシンは座ったり寝たりする姿勢が多く疲労感が少ないというのも、裏を返せば心肺機能が発達しないという事です。
実際の生活やスポーツなどで筋肉を使う時、それは瞬間的というよりも、繰り返しの持久力が求められる事がほとんどです。
なるべく呼吸を乱さずに運動するなんて現実的ではないし、それは効率が良いというより、ただの「怠慢」です。
すぐに力尽きる力自慢なんて「使えない」と言われても仕方ありません。
マシンで1つ有意な点を挙げるなら、重りを簡単に変えられる事だと思います。
これは時間節約という意味で確かに効率が良いと思われます。
しかし、気を付けて下さい。
これも1つ間違えれば使えない筋肉の材料となります。
重りを簡単に変えられるという事は、その手軽さ故に自分の限界を把握し辛いという事です。
体調や気分に合わせて節操無くフラフラ変更するようになると、自分が本当に力を発揮できる限界がわからなくなり、その時発揮すべき適切な力の配分がわからなくなっていくのです。
力の配分がめちゃくちゃな筋肉なんて使えるわけがありません。
ちゃんと体と対話して重りを決められるようにならないと、見かけ倒しで実用性の無い体になってしまうという事です。
ちなみに、ここまでマシンのデメリットのお話をしてきましたが、一般的に流行しているスロートレーニングも同様の弊害があります。
マシン程ではないにしろ、体を固定しゆっくりと負荷をかけるやり方は、怪我の防止になるものの、裏を返すと現実的な筋肉が付かなくなります。
それでいいという人は別に構いませんが、僕は何か嫌な感じが残ってしまうのです。
自重トレーニング神話
さて、ここで湧き上がるのが「自重」という考えです。
自重とは腕立てや懸垂など、自らの体を重りにする筋トレですが、この自重に美徳や拘りを持っている人はかなりいると思います。
特に健康至上主義者は、自重大好きっ子が多い傾向にあります。
マシンやフリーウェイトのような道具に頼るのは姑息で、己の肉体のみで鍛えるのが自然回帰に近い感覚があるのかもしれません。
しかし、僕は自重オンリーというのも反対です。
確かに自重トレの素晴らしさは疑いようがありません。
体は固定されないので全身の筋肉が連動しやすくなるし、自分自身を常に支える必要があるのでバランス感覚も身に付きます。
勿論、全身運動なので心肺機能も大きく鍛えられます。
また、メニューによっては道具が全く必要無くなるので、経済的にも、時間的にも、場所的にも節約できます。
一見すると完璧じゃないかと思えてしまう程です。
しかし、やはり自重オンリーはお勧めではありません。
何故なら、我々は日常生活において「物」と対峙するからです。
僕達が筋肉を使う場面は何も自分達が動いたり、踏ん張ったりする時だけではありません。
物を持ち上げたり、引いたり、押したり、そういう場面も少なくないはずです。
犬や猫だったらそんな場面はほとんど無いと思いますが、我々は手をふんだんに使って筋肉を動かす「人間」です。
そんな人間は自重だけでなく、やはり重りを持ったトレーニングもすべきだと思うのです。
それが実用性ある筋肉というものじゃないでしょうか。
そもそも自重だけというのは、何か一人の世界に閉じこもっているようで個人的に好きではありません。
僕達はこの世界に生かされているのだから、自分の以外の何かと関わりを持つべきだし、そういう意思の下に生きているのが健全であると思います。
自重で自分の体重を支えるためだけに付けた筋肉というのは、余りにも独占的で閉鎖的ではないでしょうか。
トレーニングでそこまで大きく考えるのもどうかと思われそうですが、僕は何事も世界に対して開けた態度で臨むべきだと思うのです。
「じゃあ、一体お前の勧めるトレーニングは何なんだ?」という文句がそろそろ出てきそうなので言いますが、つまるところ、「自重」と「フリーウェイト」の両立です。
フリーウェイトの採用
フリーウェイトとはダンベルやバーベルを使った古典的なウェイトトレーニングの事ですが、それと自重の両方を行うのが理想的だと考えています。
実用性の低いマシンは使わない。
かと言って、世界の閉じた自重だけに頼らない。
故に、自重+フリーです。
メニューとしては、なるべく「多関節種目」が良いと思います。
多関節種目とは一度に色んな関節、つまり色んな筋肉に刺激がいく種目の事です。
これにより、全身運動としての連動性が高まり、非常に実用性の高い筋肉が作られます。
例えば、フリーウェイトならBIG3として有名な「ベンチプレス」「スクワット」「デッドリフト」など。
自重ならば「腕立て」「懸垂」「腹筋」など。
どれも全身を連携させて動かす事のできる種目です。
それから細かい事を言うと、なるべく立って行う事。
フリーのショルダープレスやアームカールなどは座ってやっている人も多いですが、先程言ったように、それではバランス感覚も心肺機能も鍛えられません。
そんな楽しようとしないで、しっかりと起立し、敢えて疲れる状況を選択して下さい。
後はなるべく限界の重りを設定して体全体で思いっきり行う事。
体幹を利用し、反動も使ってOKです。
通常の筋トレマニュアルでは絶対にNGだと言われる事ですが、それは低い重量しか扱えない場合のテクニックに過ぎません。
軽重量で怪我を避けたい人はそれでいいかもしれませんが、実用性も兼ねた本物の筋肉を付けたいのであれば、全身を使って「やっと動かせる」位の重りに挑むべし。
実際、一流のスポーツ選手はそういうトレーニングをしています。
自分と対話する
そうそう、これも前から言っている事なのですが、高重量を扱うからと言って、グローブは禁止です。
かなりの重りを扱う場合、先に握力が尽きても大丈夫なようにグローブで強制的に重りを巻き付けてしまう方法がありますが、あれこそ使えない筋肉を作る代表です。
今、その重量を掴めないなら、まずは握力を鍛えないと。(滑り止めにチョークを使う位ならいいと思うけど)
そうしなければ、現場で使える筋肉とは言えません。
だって、重い段ボールを持ち上げる力があっても、その段ボールを掴めなければどうしようもないよね。
本来の自分の力以上の事はしない事です。
順番をすっ飛ばそうとする行為は麻薬と一緒で、結局後でツケが回ってきます。
手にマメができて痛いのなら、もっと掌の皮膚を強くするべきです。
「マメができてて持てません~」なんて格好悪いにも程があります。
それから、トレーニング中の音楽やテレビは止める。
ジムに行くと、ほとんどの人がipodを聞きながら筋トレしたり、テレビを見ながらランニングマシンに乗っていますが、あれは愚の骨頂です。
集中力を奪われ、筋肉や骨の限界を超えて怪我をする事も少なくないし、逆に限界まで追い込めずに無駄なトレーニングになる事もあります。
トレーニングは本来、自分と対話しながら行わなければいけません。
筋肉の収縮、骨や関節の可動、呼吸や血流など、色んなものを気にしながら集中して行わないとベストな肉体に近づく日は永遠に来ないでしょう。
とまあ色々と脇道にもそれながら、1発目の記事として、このジムにおけるトレーニングの方針を書いてみました。
このジムには4つの基本方針があるのですが、今回の内容はその内の1つである「実用性を重視した筋トレ」にあたります。
また次回以降、残りの方針にも触れていきますので、興味のある方は待っていて頂ければ幸いです。
それではまた。
PS:
実用性を考慮した具体的な筋トレ方法については、使える筋肉に書いてあるので良かったら見て下さい。
私は、ドカタ系の仕事など色々やりましたが、ウエイトトレーニングでビッグ3を100kg以上でいくらやろうとチーティングでバーベルカール70kgやろうと、使い物になりません。
物流倉庫で、タオルぎっしりのドデカイ段ボール30kgは非常に持ちにくく、クリーン&ジャークを一日中やるとボロボロです。
プールの塩素を配達する際には、ポリタンクを両手に持ち数十メートル歩きます。
たかが片手20kgと思いますが、これを100本すると地獄です。
ウエイトが支点より下にある方が、比べ物にならないほど重くなります。
先輩は強烈な前腕で、メチャクチャ腕相撲が強いです。
ジムにいたアームの選手より遥かに。
あと、洞窟の土を土嚢袋に入れて中腰で外に出す作業も地獄でした。
ウエイトトレーニングなど、全く通用しませんでした。
しかし、彼等がパワーリフターやウエイトリフターのように重いバーベルを扱えるかと言えば無理です。
実際に体育館のベンチ100kg無理でしたから。
どの作業もウエイトも、また別です。
チーティングで爆発的も、スローリフトも、また別のしんどさがあります。
怪我をしたくなければ、MAXの60%を8~10回程度2秒挙げ3秒下げ程度のスローリフトですね。
なんぼフォームをしっかりしても、爆発的挙上は怪我しやすいのは間違いないです。
荷物は足で持ち上げないと、腰やら背中ダメにしますのでご注意を
実際にやって分かったのですがマシントレーニングが初心者向けとは思えませんでした
1.適切な重量やシートの角度、位置、高さを合わせる必要がある
2.トレーニング中もマシンの固定された軌道に合わせた微調整が必要
機械に操られているというのは的を射ていると思います
参考にさせていただいております。一つご教示願いたい所があります。
自重とウエイトを両方を行う場合に、順番などはどのようにしたらいいと思いますか?
ウエイトの後に同じ部位を自重をするとバルクダウンするという話もあります。
では同じ部位をやる時、自重はウエイトの前に行うべきでしょうか?
それとも日を数日ずらして行うべきでしょうか?
もしよろしければご教示お願いいたします。
ジムでの筋トレで得た肉体は、実際の肉体労働では使えないというのはヒシヒシと目の当たりにしていました。 長時間の労働についてこれない(すぐ筋肉が動かなくなる)、体全体のバランスが悪くて危なっかしい(体全体を使うという事を体自体でわかっていない)、等、です。 ジム代って馬鹿にならないです。
はじめまして。
興味深く読ませていただきました。
賛同するところも多いのですが、美食と快楽に勝てずにおります。
健康に留意しながら過ごします。
また時々拝読いたします。
飲酒に引き続き、またまた共感させていただきました。私も自重トレがメインとなっています。ジムには3回行きました。感想①皆機械に操られている感②ランニングマシンと実際のランニングとは別物③不衛生④特に刺激なし です。今はダンベルと自重で1日30分です。部位を変えてスピードや間隔を
調整し負荷を変える事で毎日飽きずに楽しんでいます。お酒も美味しいです。本日「飲酒と筋トレ」の検索でこのような素晴らしいサイトに出会え感謝感激しています。ワクワクした気持ちで読み込ませていただきます。
黒羽根様
有機的で健康的な体づくり、様々なアカデミックな見地からの分析、外面でなく内面の進化、真逆概念を弁証しての中庸の道筋…仙人様の知恵の数々に眼を奪われ、130分ほどの脳内ジャック状態のまま、全ての記事をノンストップで読ませて頂きました。
男なら憧れる例のキャラクターの動画をYoutubeでも拝見させて頂き、益々ボルテージが上がると同時に、肉体進化の道のりは深く、長く、そして楽しいものだと再確認させてくれました。
運動科学の高岡さんの記事もありましたが、私も彼から高校時代に多大な影響を受け今に繋がっています。仙人様の知識は、運動×食事×睡眠の3大カテゴリーを越える見識が多く、ワクワクして読めました。
Tokyo仙人ジムというコンセプトも素晴らしいもので、私みたいな健康や筋肉、ちょっとだけ女に興味があれば(笑)、無意識に読み進めてしまうタイトルだと思います。
1ファンとして、今後とも宜しくお願い致します。
小生67になります。半年前からフィットネスジムに通いだして、確かに体の一つひとつの筋肉は鍛えられるような気がしますが、いまいちなにか物足りない気がしています。あまりにもマシンだらけで機械に人間がこなされているようで少し滑稽に見えて仕方ありません。30代のころに通っていたボクシングジムはまずスクワットからはじめてベンチプレス、デッドリフトなどこなして体を鍛えていました。人間のバランス感覚を養いながら筋力を付けていくのが本来の考え方だと思っています。実用性のある鍛え方をしたいと思っています。
小生は以前、自宅で筋トレ等を行っていましたが、ジムに通い初めて自己トレの欠点を見た思いでした。今回の貴信でまた新たに目が覚めた思いです。どちら方向一方も良く無いですね。お釈迦様の説法の様に「真ん中」の道を選んで研磨すべきかと。
沢山の人がジムでトレーニングしているのはどこか滑稽と思っていました。
実に爽快です、実用性の無い筋力を鍛える事の無意味を主張しているのは。
私は更に、鍛えるために運動する、行動するのもどうかなと思っています。実生活の中で自然と鍛えられるような行動をするのが最良だと思います。
例えば農作業とか山登りとか・・・。
マシンについての考察、とても面白かったです。
興味深い記事、ありがとうございました。
僕は、筋トレ初心者で、自宅トレーニングを行っています。
マシンが使えない分、効率が悪いのかと思っていたのですが、
デメリットばかりではないんですね。
「実用性を重視した筋トレ」、知りたいです。
次回の記事、楽しみにしています。
男として いろんな意味で 現役でいたいと思うのですが
ジムにまで行って鍛える暇もなく 日々過ぎていたのですが 今回の (実用性を重視した筋トレ) は興味があります。