「脚のトレーニングは嫌い」という人は多いと思います。
脚の筋トレは他の部位と比べてしんどいです。
スクワットなど股関節周りを動かす運動は参加する筋肉が多いので非常に疲れます。
筋肉が疲れるだけでなく心肺も疲労します。
多くの筋肉を動員するので血液供給量が増し、心臓と肺臓に大きな負担がかかるからです。
「ハァハァ、ゼェゼェ」と息切れするようになり、部活でしごかれているような感覚になります。
他の部位だとこうはなりません。
例えば、胸のベンチプレスはかなりの重量を扱っても心肺機能はそれ程まで疲弊しません。
息切れする事は無く、胸周りの筋肉だけが心地よく疲れて終わります。
苦しくなく、それでいて達成感が大きいので、ベンチプレスを好きな人は多いと思います。
お腹や腕周りのトレーニングも心肺は疲れません。
懸垂など背中の部位は参加する筋肉が多くなり、それなりに疲労しますが、脚程ではありません。
脚、特に大腿部に関しては、筋肉量の多さと心肺のダブルパンチで相当しんどくなるのです。
トレーニング中級者以上の人でも、「脚の日は鬱」と言う人は多いです。
そして、それ程大変にも関わらず、メリットが余り感じられなかったりします。
男性で筋トレする人の大半は筋肉質な体を目指しますが、その場合、どうしても上半身に傾倒してしまいます。
分厚い胸板、幅広い背中、割れた腹筋など、目に見えてわかりやすい部分を鍛えたくなります。
脚の美しさまで考えられる人は少ないです。
太腿やお尻の筋肉美まで追求する人は本格的なボディビルダー位だと思います。
フィットネスやサプリメントの広告でも裸の上半身を使用する事からもわかる通り、どうしても上に目が行ってしまうのです。
女性は女性で脚は太くしたくないと言って、やはり敬遠してしまう事がほとんどです。
実際、筋肉で脚を太くするのは相当難しく、一般女性が懸念するような事では無いのですが、どうしても心のどこかで引っかかっています。
ですから、男性女性共にパッションを持って下半身を鍛える気にはなかなかなれません。
辛い上にメリットが余り感じられず、モチベーションが上がらないのです。
加えて、このブログの読者に関しては僕が以前書いた「要らない筋肉」という記事が脚嫌いを加速させてしまった事もあるようです。
あの時は大腿四頭筋や下腿三頭筋は動きの邪魔になると書いたのですが、「下半身は鍛えなくて良い」と極端に受け取ってしまった人が結構いました。
しかし、脚のトレーニングは大事です。
特に、健康やアンチエイジングという面では非常に有意義なものになります。
長寿とも関係があるし、精力増強とも関係があるし、怪我とも関係があるし、ダイエットにも関係があります。
実は脚の筋トレは非常にメリットが大きいのですがその事を余り理解できていない人が多いので今日はその話をしたいと思っています。
脚の重要性と具体的な鍛え方についてです。
またも前置きが長くなってしまいましたが、この記事を読んで脚を動かす人が増えてもらえたらと思っています。
どんな運動が良い?
では早速始めたいと思いますが、脚の話をするとまずこの質問が来ます。
「ウォーキングやジョギングでも良いですか?」
個人的には足りないと思います。
勿論やらないよりやった方が全然いいですが、それだけでは不十分だと思っています。
というのも、ウォーキングやジョギングは関節の可動域が極めて限定的だからです。
脚の関節には股関節、膝関節、足首関節などがありますが、歩いたり軽く走ったりする行為ではそのポテンシャルを使い切れません。
ちょっと曲げて伸ばす位なので限界可動域の半分も使えないはずです。
しかし、関節はフルに使っていないと、必要最低限しか動かなくなります。
筋肉もフルに使っていないとどんどん弱くなっていきます。
やらないよりはずっといいですが、それだけでは足りないのです。
では、何をすべきなのかと言えば、「しゃがむ」という事です。
しゃがむとは体を完全に沈み込ませる事ですが、そうする事で関節も筋肉もフルに稼働して、本当の意味での脚の機能が培われます。
そもそも問題なのは、現代社会においてしゃがむ動作が少なくなっている事です。
仕事は椅子に座って行います。
トイレも便座に座ります。
寝るのもベッドになりました。
とにかくしゃがむ機会がありません。
意識している人は余りいないと思いますが、西洋文化の普及で僕達はしゃがまなくなったのです。
そして、この現状が様々な健康問題に関わっていると言う研究者もいます。
例えば、あるリサーチでは100歳以上の元気なお年寄りは地方の日本式の家屋に住んでいる事が多いというデータがあります。
これは畳で寝て、トイレが和式で、畑作業をして、しゃがむ動作が非常に多いからだと言うのです。
中でも女性は長寿の傾向があるそうなのですが、これもトイレで必ずしゃがむからというものです。
では何故、しゃがむ事が健康に良いのかと言えば、その最たるものは、循環が良くなるからです。
知っての通り僕達の循環を司っているのは心臓です。
心臓は全身の血液のポンプの役割をして、体中に流れる水分を移動させています。
しかし、これはかなりの重労働です。
人体の7割を占める水分を動かしているのですから、その労力は相当なものだとわかると思います。
少しでも流れが滞るものならば、心臓に負担がかかって血圧が高くなります。
血中コレステロールの多い肥満者に心臓病が多いのはそういうわけです。
そして、心臓の機能が追い付かなければ「むくみ」という状態を引き起こします。
特に重力の関係で下半身は水分が戻って来辛く、ふくらはぎなどに溜まってむくんでしまうのです。
これを助けてくれるのが脚の筋肉です。
脚を動かす事で心臓のポンプ機能をサポートし、マッサージのように水分の移動を助けてくれるのです。
特に溜まりがちの下半身の水分を戻してくるので、脚は「第二の心臓」とも呼ばれたりします。
脚は心臓への負担を下げると共に、むくみ現象を取り除いてくれます。
更に、股関節付近の鼠蹊部には人体最大のリンパ節があります。
リンパは免疫に関する物質を運んでいますが、筋肉やマッサージによって促進されます。
つまり、股関節周りの筋肉を動かす事により、細菌に強く病気にならない体を作る事ができるのです。
大事なのはしっかりしゃがむ事です。
脚の関節をフルに稼働させる事によって筋肉が大きく収縮伸張を繰り返し、循環を最大限まで高めてくれるのです。
循環には逆立ちやトランポリンも有効ですが、しゃがむのが最も簡単です。
特別な技術も要らず、道具も必要とせず、いつでもどこでも誰でも簡単に実行できます。
しゃがむメリット
更に、しゃがむ事は循環による健康促進だけで無く、他にもいくつかメリットがあります。
精力増強
滞りがちな股関節の血液やリンパの通りが良くなるので、生殖器全体が活性化します。
実際、スクワットした後はムラムラする事があります。
やっている方はわかると思いますが、これは別にいかがわしいわけでは無く当然の生理現象です。
股関節周りの循環が良くなれば、その付近の臓器の調子が上がるのは当たり前なのです。
そういう意味で、精力減退に悩んでいる人には救世主的な存在になれるかもしれません。
転倒防止
真剣に考える人は余りいないと思いますが、これが一番大切だったりします。
人間は二足歩行を決意した時から転倒というリスクと隣り合わせになりました。
この転倒は思っているよりもずっと重要な問題で、実は寝たきりになる原因の第二位です。
更に言うと、転倒による死亡者は年間2000人以上います。
特にお年寄りと女性に多いのですが、転倒は一瞬で人生を終わらせてしまいますので厳重に注意しなければならない問題なのです。
何故転倒してしまうかと言えば、一番の問題は関節が固まっている事です。
先程言った通り、関節は使わないと必要最低限しか動かなくなります。
一定の角度のままに固定されてしまって緊急事態に素早く曲がる事ができなくなり、突っかかって転んでしまうのです。
ですから、普段からしゃがんで脚の関節を動かし、どんな時も柔軟に稼働できるようにしておくのが大切です。
骨強化
骨を強くする要因はいくつかありますが、最も強力なのは重力への対抗です。
カルシウムとかビタミンDとか色々言われますが、そんな物よりずっと効果的なのが重力に抗う事なのです。
大きな重力の負荷がかかる事によって骨はより強くなろうと骨密度を上げます。
実際、重力負荷をかけてトレーニングする柔道、ラグビー、パワーリフターなどは骨密度が高い事で有名です。
逆に重力の少ない水泳選手は一般人よりも骨密度が下がってしまう事も有名です。
そして、しゃがむ事は重力に逆らう運動で、しかも負荷が高く、骨は最高に強くなります。
重りを持つと更に強くなります。
丈夫な骨を作るために、しゃがむのは必須なのです。
脂肪燃焼
これはよく言われる事だと思いますが、脚の筋肉は非常に大きくダイエットに効果的です。
特に股関節周りの大臀筋、ハムストリング、そして敬遠されがちな大腿四頭筋は巨大なので、フルに動かすと大量のカロリーを消費します。
また、心肺機能も使うので有酸素運動的な脂肪燃焼効果も期待できます。
そして何より、基礎代謝が劇的に上がるので、何もしていない時も脂肪を浪費してくれるのです。
お腹周りの脂肪を落としたいと思っている人も実は腹筋するよりスクワットした方が良かったりします。
しゃがむ事はそれ程のダイエット効果があるのです。
キリが無いのでこれくらいにしておきますが、他にもしゃがむ事にはメリットがたくさんあるので是非やって欲しいと思っています。
具体的なメニュー
実際何をやればいいかと言うと、初心者の方はとにかくヒンズースクワットです。
30回3セットを目指して頑張って下さい。
ナロースタンスであればO脚の矯正にもなります。
ワイドスタンスにすればX脚の矯正にもなります。
やり過ぎて嫌にならないようにだけ気を付けて下さい。
僕は以前、これを潰れるまで30セットやってみたら1週間階段が上れなくなりました。
そんなアホな人は余りいないと思いますが、加減を持って取り組んで下さい。
中級者以上はダンベルやバーベルを持っていいですが、この時に注意するのは重量を重くし過ぎない事です。
パワーリフティングのように8~10回で潰れる位の重量を選択すると腰痛になる可能性が出て来ます。
背筋周りが強く、重い重量へ挑戦したい人は構いませんが、安全にやるなら15~20回で潰れる重量が良いかと思います。
また、バーベルを持っている人にはハックリフトという方法があります。
デッドリフトとスクワットの合いの子のようで、バーベルを後ろ側で持って体を起こす動きですが、重量が下にあるので腰部への負担が少なく済みます。
ラック無しでもできる点も良いですよね。僧帽筋も同時に鍛えられたりします。
但し、先に握力が耐えられなくなる事が多いので最高重量への挑戦は難しいと思います。
後、特におススメなのがランジです。
これも1種のスクワットなのですが、ランジは高重量を扱っても腰を痛めません。
重いバーベルを担いだとしても、重量と脊椎の位置が一直線になるので、腰への負担は非常に低くなるのです。
しかも、単純な曲げ伸ばしが主体のスクワットと違い、股関節を旋回させる動きも大きく関わってくるので、筋肉や関節にたくさんの刺激を与える事ができます。
左右でバラバラにやる面倒臭さはありますが、今のところランジはかなり優秀だと思っています。
という事で長くなってしまいましたが、とにかく、しゃがもうよという事です。
「しゃがむ」とは英語で「スクワット」です。
スクワットはヒンズースクワットという言葉からもわかる通り、その源流はヒンズー教にあります。
ヒンズー教徒は寺院に入る時の礼拝でしゃがみ動作を3回実行するそうなのですが、これがスクワットの源流と言われています。
礼拝する事がスクワットになり、知らずに健康になる事から体力作りの1つとして昔から伝えられているのでしょう。
歴史的、伝統的に支えられるスクワット、是非やっていきましょう!
PS:
日本人に失われたもう1つの動作があります。
しゃがむのと同じ位、大切です。
素晴らしい、お話でした。いつも勉強になってます。
ただ、水泳に関する言及に対して少々反論をしておきます。
確かに、その他のスポーツをやっている方に比べると水泳をやっている方は骨密度が低いそうです。
しかし、ネットでいろいろ記事を調べてみると、何も運動していない人と比べて骨密度が低くなるとはいえないような研究結果も多く見られました。
私の意見としては、以下のようにまとまりました。
・特に骨密度の増強という目的では、水泳は不十分かもしれないが、逆効果とまではいえない。
・運動不足解消、体力増進という目的では、むしろどんどんやるべきである