筋肉や関節を痛めてしまった時、或いはコリやハリ、慢性的な痛みが抜けない時、あなたはどういう行動を取るでしょうか?
僕がパーソナルセッションでお客様と話していると、このような事態において、高確率で残念な行動を取ってしまっている人が多いと感じます。
しかも、僕がブログやメルマガ、セッション等で何度も伝えているにも関わらず、いざその状況になると無意識にやってしまうのです。
これは、私達が小さい頃から繰り返し刷り込まれ、やってきた事で常識化し、完全に洗脳が完了してしまっているからだと思います。
もはや疑う余地すらなく、思考停止で自動的に判断している行動…本日はそんな怪我や故障をした際にやってしまいがちな3つの誤った習慣行動を紹介します。
問題の早期解決や、長期的なパフォーマンス維持に役立つはずですので、ぜひ最後まで目を通してみて下さい。
1.とりあえず湿布(冷やす)
筋肉や関節のケアには、大きく分けて「温める(温熱)」と「冷やす(アイシング)」があります。
この2つは明確に使い分ける必要がありますが、多くの人は「とりあえず湿布を貼っておこう」という選択をしがちです。
結論から言うと、湿布(=冷やす処置)は、基本的には「急性の怪我」の初期段階でしか使いません。
具体的には、打撲や捻挫などで内出血を起こし、血液が患部に過剰に集まってパンパンに腫れ上がっているような状態です。
腫れが酷くなりすぎると組織に不可逆的な(元に戻らない)変化が起こる可能性があるため、血流が集まりすぎるのを防ぐために、一時的にアイシングを行います。
逆に言うと、こうした特殊な急性期以外は冷やす必要はありません。
個人的には、外科手術を要するレベルで猛烈に腫れ上がっていない限りは、無理に冷なさなくて良いと考えています。
なぜなら、集まってきた血液は傷ついた組織を修復するための「免疫システム」そのものだからです。自然治癒の邪魔をわざわざする必要はありません。
まして、日常的なコリ、ハリ、慢性痛において冷やす行為は完全に逆効果です。
これらの不調は大抵の場合、血流が悪くなっている事が原因です。
そこに湿布を貼って冷やしてしまえば、更に血流が滞り、回復は遠のきます。
急性の怪我であっても、腫れが引いた後まで延々と冷やし続けるのは回復を遅らせる原因になります。
少し込み入った話になりますが、筋や関節の不調の多くは、筋膜の劣化や脱水によって起こります。
この筋膜の健全性を担保(滑走性を良く)するのは「温度」と「湿度」です。
ですから、湿布を貼るくらいなら、お風呂に入ってしっかり温めた方がよほど理にかなっています。
温泉に入ると身体の調子が良くなるというのは、単純に深部体温が上がり、血流が促された事による恩恵が大きいのです。
ただ勘違いして欲しくないのは、身体を冷やす事を全て否定しているわけではありません。
ハードなトレーニング直後に、過剰な全身の炎症を抑えるための水風呂や、健康な人が自律神経の刺激(反動による血流促進)を目的にアイスバスに入るのは有効なアプローチだと考えています。
2.不安になって整形外科
僕は筋肉や関節の機能的な不調に関しては、「適切な筋膜リリースを行えば元に戻る」と口を酸っぱくして言っています。
にも関わらず、腰や膝、肩などを痛めると、不安に駆られて、すぐに整形外科に駆け込んでしまう人が後を絶ちません。
そして、とりあえずレントゲンを撮るものの、「骨には異常ありませんね」と言われて原因はわからないまま。
結局、痛み止めや湿布を処方されて、モヤモヤしたまま帰路につく…というのが大半のオチではないでしょうか。
不安になって専門家に頼りたくなる気持ちは痛いほど分かります。
しかし結果だけを見れば、X線による微量な被曝をし、薬で肝臓や胃腸を疲弊させ、時間とお金を消費しただけで、根本原因は1ミリも解決していません。
誤解を恐れずに言えば、「骨」の変形や骨折ばかりを見て、「筋肉や筋膜の機能不全」をすっ飛ばしてしまう古典的な西洋医学のアプローチでは、この手の慢性痛には対応できないのです。
もし病院(整形外科)に行くのであれば、骨折や靭帯断裂などの「器質的疾患」が無いかを確認するスクリーニングとして割り切るべきです。
それ以上の改善を求めるのであれば、筋肉へ直接アプローチできる整体・鍼灸・マッサージ等に行った方が良いと思います。
少なくとも放射線や薬物による副作用の害を重ねられる心配はありません(ただし、一時的に良くなっても数日でぶり返す対症療法であるという意味では病院と同じですが)。
現時点で、もし誰かに頼るのであれば、身体の運動機能を評価できる「アスレティックトレーナー(AT)」が最善の選択肢です。
硬化した部位を解放するだけでなく、弱化した筋肉を活性化させるコレクティブエクササイズ(修正運動)までセットで処方してもらえるため、根本解決に繋がります。
但し、腕の良いトレーナーはアスリートのサポートで現場に張り付いている事が多く、一般の方が生活圏内で見つけるのが非常に難しいというハードルはあります。
3.根拠なきストレッチ信仰
「腰痛になったから、テレビで見たストレッチを始めました」という人をよく見かけます。
特に前屈や開脚を頑張る人が多いですが、そのほとんどは、硬い身体に鞭打って無理やり伸ばそうとした結果、腰が丸まってしまい、逆に腰痛を悪化させています。
確かに、ハムストリングス(腿裏)や内転筋の硬さが腰痛を引き起こす引き金になっているケースは多いですが、そこを伸ばそうとするプロセスで腰椎に過剰な負担をかけていたら本末転倒です。
身体が硬い人が両脚を伸ばした状態で前屈や開脚をすると、骨盤が後傾して必ず腰が丸まるので、もしやるのなら片脚ずつ行うべきです。これなら腰への負担を最小限に抑えられます。

しかし、それ以上に優先すべきは、ストレッチの前に筋膜リリースを行う事です。
最初にリリースを行って筋肉の局所的な縮こまり(筋拘縮)を解いておかないと、ストレッチ自体がただ痛くて不快な苦行になります。
最悪、伸びない硬い結び目を無理に引っ張るような形になり、筋腱を断裂する恐れすらあります。
そもそも、日本人は「前屈・開脚ができる=健康・健全」という信仰が強いですが、ハッキリ言って、この方程式は成り立ちません。
僕はこれまで多くの身体を見てきましたが、ヨガのインストラクターで180度開脚ができても、全身の筋肉が拘縮(ガチガチに緊張)している人はザラにいます。
逆に、開脚は全くできず前屈すら苦手でも、筋肉の質としては非常にしなやかで健全なコンディションを保っている人もいます。
「関節の可動域(柔軟性)」と「筋肉の健全性」は一致しないのです。
むしろ、競技や目的によっては、身体が適度に硬い(剛性が高い)方が有利な事すらあります。
分かりやすいのが「足の速さ」です。足首が適度に硬い人は、地面からの反発力(地面反力)を効率よく身体に伝える事ができるため、バネのある走りができます。
一方、足首がグラグラに柔らかい人は、衝撃を吸収してしまい、怪我はしにくくても足が遅くなりがちです。
柔軟性と剛性はトレードオフであり、それぞれに一長一短があるのです。
「前屈や開脚ができる人が偉い」というのは、メディアや特定のビジネスによって作られた幻想に過ぎない事を、肝に銘じてもらえたらと思います。
本来やるべきステップ
ここまでを踏まえて、筋肉や関節の痛み、コリ、ハリに対して私達が本当に取るべきファーストステップは何でしょうか?
- 身体を温める(血流促進)
- 筋膜リリースを行う(拘縮の解除)
- 適切なストレッチを行う(可動域の定着)
このステップを踏むのが最も盤石です。
もし、セルフケアでどうしても改善しない場合は、信頼できる治療家やアスレティックトレーナーを探して下さい。
そして、もし「この人は本物だ」と思える専門家に出会えたら、その縁を全力で大切にする事をお勧めします。
なぜなら、本当に腕の良い専門家は常に多忙であり、一度その顧客リストから外れてしまうと、二度と予約が取れなくなるケースが珍しくないからです。
という事で、本日はこの辺で終わりたいと思いますが、自身の身体の感覚を信じ、常識を疑う事から本当の健康が始まります。
改めて、自分の身体と丁寧に向き合っていきましょう。
今回の話が少しでも参考になりましたら幸いです。



お守り代わりについやりがちな行動について納得しながら読ませていただき、考えが整理されました。
1点だけ、湿布(=冷やす処置)と表現されている部分が気になりました。
湿布はアイシングではなく、皮膚から吸収される痛み止め薬だと思っています。慢性痛などにおいては、湿布は消炎鎮痛成分によって悪影響を与えるのでアイシング同様という理解でよいでしょうか。
これからも日々の配信を楽しみにしております。
「お守り代わりについやりがちな行動」という部分、深く納得していただけて何よりです。思考停止の習慣から抜け出すきっかけにしていただければ幸いです。
ご質問いただいた「湿布=冷やす処置」という表現については、ご指摘の通りです。仰る通り、現代の一般的な湿布(ロキソニンテープやボルタレン等)の本質は、アイシングのような物理的冷却ではなく、皮膚から浸透させて炎症や痛みを化学的に抑え込む「経皮吸収型の消炎鎮痛薬」です。
ブログ内で分かりやすさを優先して「冷やす処置」と一括りにして表現してしまいましたが、薬理的な観点から見ると、「慢性痛において湿布がもたらす悪影響は、アイシングと同等、あるいはそれ以上に有害である」というご理解で間違いありません。その理由は大きく分けて2つあります。
1.「痛みのサイン」を消して、根本原因(筋拘縮)を放置してしまう
慢性痛の正体は、血流不全による筋肉の「酸欠」と、それに伴う筋拘縮(ガチガチの緊張)です。湿布の消炎鎮痛成分は、脳へ行く痛みのシグナルをブロックするだけですので、根本にある「筋肉の硬さ」は1ミリも解決していません。麻酔をかけて無理に動かしているような状態になり、結果的に組織の劣化を進めます。
2.化学的に血流を阻害し、組織の修復を遅らせる
多くの消炎鎮痛剤は、血管を拡張させる物質(プロスタグランジン)の合成を阻害することで痛みを抑えます。つまり、薬の作用として意図的に血流を悪くさせているのです。血流が命である慢性痛に対してこれを日常的に貼る行為は、自ら回復を拒否しているようなものです。
「メンソール等の冷感刺激で、冷やしていると錯覚させている点(アイシング同様の思考停止を招く)」という意味も含めてブログではあのような表現に落とし込みましたが、「これは消炎鎮痛剤である」と正しく認識した上で、その弊害を見抜かれているのは素晴らしいことだと思います。
今回いただいた視点は、今後の発信や記事のブラッシュアップの際にも、より解像度の高い表現をするための大変貴重なフィードバックとなりました。ありがとうございます。